「こんなに違う」日本と台湾、男女の立場と力関係 夫婦が離婚すると住宅はほぼ自動的に妻のもの

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台湾の家庭では共働きが一般的なので、お互いのことをチームメイト、もしくはパートナーと考えている夫婦がたくさんいます。実際に台湾では配偶者のことを「隊友」と呼び、家事は男女で分担するのが基本です(未就学児を抱える家庭の共働き率は58.1%、就学児を抱える家庭の共働き率は74.5%。2018年調べ)。

男女の関係を観察すると、前述したように、台湾では女性のほうが強い存在に映ります。事実、恋人間では、彼氏が彼女の学校や職場に送迎する光景をよく見かけます。不満があると女性はストレートに文句を言うので、台湾の男性は女性にとても気を遣うのです。

日本人男性と結婚した知り合いの台湾人女性の嘆きを以前に聞いたことがあります。ある日、仕事を終えて電車で帰ろうとしたら、何らかのトラブルが起きて電車がストップしていたそうです。いつ運転が再開するかわからなかったため、彼女はすでに帰宅していた日本人の夫に電話をしました。このとき彼女は、「じゃあ、車で迎えに行くよ」という言葉を期待していたのです。

ところが夫から返ってきたのは、「ああ、そうなんだ。困ったね。気をつけて帰ってきてね」という言葉でした。それを聞き、彼女はとてもがっかりしたそうです。たしかに台湾人の男性なら、「迎えに行くよ」と答えていたかもしれません。それくらい、台湾の男性は女性に尽くします。

気配りができる男性のことを、台湾の女性たちはよく「エビの殻を剥いてくれる男性」と言います。外食をして蒸しエビを注文したときに、恋人や奥さんのために殻を剥いてあげる気遣いができる男性は女性の間で評価が高いのです。

仕事も子育ても夫婦で協力する

子育てについても、台湾の父親はとても積極的と言っていいでしょう。学校の送り迎えをしている父親の姿はどこに行ってもよく見かけます。実際、2013年と2020年に台湾児福連盟によって行われた父親像についての調査結果を見てみると、7年の間に父親の役割に変化が起きていることがわかります。

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2013年の調査によると、夫婦共働きであっても、台湾の父親は一家の主として忙しく働く存在として家族から見られていました。子どもに「自分のケアをしてくれるのは誰か」と聞いたところ、「母親」と答えた子どもの割合が高いという結果も出ています。父親は一家のなかで少し疎外された存在で、単なる“ルームメイト”として捉えている子どももいたのです。子どもからすると、いつも働いていて、家にほとんどいない存在という感覚だったのでしょう。

2013年当時、台湾ではこの調査結果が大きな話題となりました。多くの人たちが危機感を覚えたのです。それを受けて、子どもと父親の距離を縮めるべく「ラブチルドレン333」というムーブメントが起きました。

その内容は、「1日3回、子どもと一緒にいる機会を設けよう」「週に3回は一緒に食事をしよう」「月に3回は子どもと出掛けよう」というものでした。こうした動きが台湾で広がっていったため、2020年の調査結果では父子の距離がだいぶ縮まり、育児に積極的に参加する父親が増えました。日本では、母親が育児を主導するのが当たり前という考えがまだまだ強いように感じます。その一方で、現在の台湾では夫婦が共に育児をするという考え方がかなり定着しているのです。

御堂 裕実子 台湾進出コンサルタント/ファブリッジ代表

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みどう ゆみこ / Yumiko Midou

1979年東京生まれ。明治学院大学卒業後、日本での広告代理店勤務を経て、台湾国立政治大学へ留学。帰国後2008年に台湾と日本の事業の架け橋となるべく、合同会社ファブリッジを立ち上げる。2017年には台湾Fabridgeを設立。台湾企業とのマッチングや現地デパート、スーパーでの販売プロモーション、EC販売企画運営、日台輸出入物流サポート 、マーケットリサーチなどの事業を行っている。日本の地方自治体のアウトバウンド支援や、食品会社、不動産企業、教育事業など様々な業界の台湾進出を手がけ、支援企業は200社を超える。

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