宗教「勧誘に注意」の報道で団体名を伏せられる謎 統一教会のブームが過ぎたら元通り、では困る

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〈今、菊池さんが危惧するのは、旧統一教会だけが追及されて終わること。「どんな宗教でも、家庭で子どもの信教の自由が侵害されていれば、それは人権問題です。決して旧統一教会だけの話じゃない」〉

これこそ、統一教会だけを追及して終わらせる記事ではないか。こんな自己矛盾をきたしてもなお不合理な慎重さを捨てきれずにいる。

ブームが過ぎたら元通り、では困る

「新聞・雑誌記事横断検索」では、安倍氏銃撃事件が起こった7月8日以降の約5カ月間で、「統一教会」「統一協会」が登場する記事は3万4143件(12月31日時点)。地下鉄サリン事件があった1995年の1年間のオウム真理教に関する報道3万2389件を、すでに上回った。一見、空白の30年が大きく崩れたかのように見える。

しかも今回は内容面でも、カルト的な集団について過去に繰り返されてきた瞬発的な時事報道とはまったく様相が異なる。政治家の問題、金銭被害、2世問題など多岐にわたるテーマで、独自の取材によって事実を掘り起こすものや、被害の救済や予防につながる問題提起的な報道が目立つ。それが事件から半年近く経っても収束しない。十分とはいえないものの政界も大きく動いた。

いま大手メディアは、優秀な人材を集めた組織ジャーナリズムの本領を遺憾なく発揮している。中央の大手に比べて体力的に余裕があるわけでもないはずの地方メディアも、同様だ。

しかしこれだけでは、ほかの宗教団体の報道ではいまだ残る不合理な慎重さを断ち切ることはできない。これができなければ、「統一教会ブーム」が落ち着いた後、再び暗黒の空白がやってくる。

事件の前も後も、現場の記者たちの熱意をそぐのは、各社の「上の人たち」だ。安倍氏銃撃事件が起こる1年ほど前、私は統一教会以外のカルト的な集団の報道をめぐって、大手新聞の記者からこんな言葉を聞かされた。

「訴訟にならなくても抗議文が来るだけで、社内で上司の責任問題になる」

各社の上の人たちには、こうした自社のあり方を再考し、現場の記者たちが存分に問題意識をはっきできるよう、しっかり守って後押ししてほしい。すでに発揮されている大手メディアの本領を、統一教会問題だけにとどめてしまうのはもったいない。

藤倉 善郎 ジャーナリスト

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ふじくら・よしろう

1974年生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から自己啓発セミナーを取材。2009年にニュースサイト「やや日刊カルト新聞」を開設。

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