生きづらい人が「陰謀論にハマる」のも一理ある訳 「自分だけは無関係」と思いがちな私たちにも重要

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過激主義や陰謀思考などを専門に研究している行動科学者のヤン=ヴィレム・ファン・プロイエンは、陰謀論について、

① 自分自身や自分たちの集団が重要であると認識することで脆弱な自我を守ることができる
② 自分の信念や行動を正当化することができる
③ 刺激的な物語の中で謎を解明する機会を通じて楽しませてくれる代替現実を可能にしてくれる

という3つの利点を挙げている(Psychological benefits of believing conspiracy theories/Current Opinion in Psychology, 47, 101352.)。ただ、あくまでこれらは短期的なものであり、一種の即効性を与えているにすぎないと付言する。

陰謀論は尊厳を取り戻す機能をもたらす

最初の指摘は、とりわけ尊厳に関わる問題だ。作家のユアン・モリソンは、陰謀論とともに人生を歩んだ実父について、「陰謀論を信じることは、父にアイデンティティと人生の目標を与え、混乱した出来事を解釈する唯一の方法を与え、深い仲間意識を持たせることになった」という。

彼の父親は、イギリスがスコットランドを支配しようと陰謀を張り巡らしていると信じ、自分のような過激な分離主義者は当局から監視され、仕事からも排除されかねないと気を揉んでいた。その心理的背景には威信の失墜があったとみている。「長年、万能のイギリス国家という世界観のもとで生活してきた彼は、敗北感を感じていた」と(The Unexpected Benefits of Conspiracy Theories/2021年2月18日/Psychology Today)。

コロナ禍以後、急拡大した「闇の世界政府(ディープステート)がパンデミックやワクチンを駆使して人口削減を図っている」という類の陰謀論は、雇用の不安定化や生活不安、孤独感といった事柄によって、これまで自分を支えてきた「世界観」が危機に見舞われた人々にとって、容易に尊厳を取り戻す機能をもたらしたことが推測できる。

筆者は、モリソンの父親のように陰謀論によって活性化した人々を間近で見てきた。彼らに共通するのは、新たな「世界観」の獲得による欠乏の埋め合わせである。定年退職後の役割と居場所の不在や、経営者としての評価の不足といった尊厳に関わる問題を、自ら発見した重要なミッションとそれに対する決意や責任の感覚によって乗り越えるのである。

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