生きづらい人が「陰謀論にハマる」のも一理ある訳 「自分だけは無関係」と思いがちな私たちにも重要

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ファン・プロイエンが、「陰謀論を信じることは、何か本当に重要なことを発見しているという印象を高めることによって、意味と目的の感覚をインストールすることができる」(前掲論文)と主張している通り、人々に重要性や優越感を与えることができ、脆弱な自我を防衛する有益な手段となりうる。

だが、これは一方で、社会との摩擦を増大させる方向に作用しかねない。なぜなら、自らが発見した重要なミッションを否定したり、阻んだり、攻撃したりする社会の主流派を敵視するからだ。しかも、前述の「深い仲間意識」に表されているような同志的なつながりは、かえって過激化の温床となる場合がある。

現実のつらさを軽減するために陰謀論にのめり込む

「刺激的な物語」という娯楽性の問題も侮れない。筆者は、主に中学から高校時代にかけて典型的な陰謀論者であった。世界はユダヤ金融資本が牛耳っており、軍産複合体とともに戦争や紛争を仕掛け、疫病や気象コントロールで人口削減を行っていると信じていた。

厳密には、とりわけ陰謀論だけを強く信じていたというより、UFOや宇宙人、超古代文明、心霊現象等々を「刺激的な物語」として片っ端から享受し、友人たちに得意げに吹聴していた。関連書籍だけで300~400冊ぐらいは読んでいただろう。雑誌も山積み状態だった。当時を振り返ると、学業や進路に不安を抱え、兄弟の中で最も勉強ができない劣等感にさいなまれていた。そのため、「刺激的な物語」で意識を飛ばし、その一部になったような気になることで劣等感を埋め合わせていたのである。

ここには当然ながら「脆弱な自我を守る」という部分も含まれていた。もちろん、純粋な娯楽として面白がってもいたが、過度の深入りを考えると逃避的な行動であったことは否めない。事実、これらの「刺激的な物語」のお陰で現実のつらさが軽減できていたからだ。結局のところ、尊厳の問題とも強くリンクしていたことが浮かび上がってくる。

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