「ネズミ駆除対策」がかえって大量発生を招いた訳 「正しいインセンティブ」の設定は意外と難しい

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それまで個人プレーで好成績をとってきた学生は、ほかの学生を押しのけながら、絶対にAをとろうとグループのプロジェクトを抱え込みたがるのだ。

教員にとってもチームワーク問題は無縁ではない。個人の実績にもとづいて査定があるとわかっているので、チームとして成果を出そうとする外発的インセンティブもなく、そうしたインセンティブを自分たちで作ろうというモチベーションも抱かない。

成功を評価する方法がわからないせいで、報酬を効果的に導入できない場合もある。

たとえ目標の主旨から外れていても、ただただ測定しやすいものに報酬を出してしまうかもしれない。

仕事なら、創造的なソリューションを考案したとか、長期的成長に向けて一歩進んだといったことにインセンティブを設定するのが理想的だろう。しかし、この手の成果は測定しにくい。そのため短時間で仕事を終わらせたとか、ほかの社員より多くのプロジェクトを手掛けたといった成果に自分自身で報酬を設定することになりやすい。仕事の質よりも量をねぎらってしまうのだ。

こうしたインセンティブ構造は創造性や長期的ビジョンを損なうことになる。

回避型目標に対する報酬

回避型目標を掲げている際は、正しい対象に報酬を設定することがいっそう難しい。

危険や病気を避けたいなら、憂慮すべき兆候に対して報酬を設定する必要があるが、悪いニュースをねぎらうというのは厄介だ。

様子のおかしいほくろを見つけた場合、除去して皮膚癌のリスクを回避する充分な時間的余裕をもって気づけたのだとしても、その発見を歓迎する気にはなれないだろう。

「伝令を撃ち殺す」というフレーズが表しているように〔訳注 悪くない人を非難することを意味する慣用句〕、私たちは悪い知らせを伝えた人をねぎらいたがらない。それが自分自身であってもだ。

これと同じようなフレーズは古代ギリシャの時代からあったので、悪い知らせの使者に八つ当たりをするのは昨今だけの傾向ではないことがわかる。

それでも、悪いニュースも積極的に受け入れることができるなら、回避型目標をうまく避ける助けになるはずだ。

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