「ネズミ駆除対策」がかえって大量発生を招いた訳 「正しいインセンティブ」の設定は意外と難しい
しだいに明らかになったのだが、駆除業者の多くは獲物をつかまえると、しっぽを切り落とし、そのままネズミを下水道に逃がして、繁殖するままにさせていた。それどころか、ネズミで生計が立つようになったことをきっかけに、ビジネスの才覚を発揮して、繁殖事業を始めていた者もいた。
報奨金プログラムが中止されると、ネズミブリーダーは要らなくなった商品を何万匹も市中に放った。最終的に、報奨金プログラムはハノイを走り回るネズミを減らすどころか、増やす結果となったのだった。
この経緯は、報酬を出す対象を間違えるとどうなるか、ありありと教えている。インドでも、イギリス領で役人がコブラ駆除に同様のプログラムを導入し失敗したことから、これに「コブラ効果」という名前がついた。死んだコブラを手に入れるために、コブラを増やせばいいという発想になったのだ。
報酬は影響力をもたない――というのが、この史実で得られた教訓だろうか。いや、違う。むしろ正反対だ。報酬は影響力がある。ネズミやコブラの繁殖に取り組ませるという効果があった。人の行動に変化をもたらすことは可能なのだ。
どうやってチームワークを促すか
ただし、報酬を出す対象が間違っていると、意図した行動とは違う行動が生じてしまう。正しい対象に報酬を出すことの重要性はあなどれない。
たとえば私は経営学の教授として、チームワークを推進したいと考えている。学生が社会で成功するかどうかは、究極的には、周囲と協力し合えるかどうかにかかっているからだ。
しかし、高等教育で一般的に用いられるインセンティブ――よい成績、推薦状、あるいは単位を認めないという罰――はチームワークの上達を促すようには作られていない。これらはチームではなく個人のパフォーマンスに対するインセンティブだ。
私の講義では、経営改善に関するレポートをグループで作成するなど、集団活動を促すインセンティブの設定を心掛けているが、集団の成績に対するインセンティブがあっても、チームワークが生じるとは限らない。
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