アメリカと中国「半導体めぐる強烈な対立」の重み ツキディデスの罠を避けるため、原則すら歪める

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こうした中で、アメリカが対中半導体輸出規制を強化するのは、とりもなおさず中国の半導体産業の成長を押さえつけ、その間に西側諸国が協力して、さらなる先端半導体の開発を進め、中国との能力のギャップを拡大することを目的としているからである。

つまり、アメリカと西側諸国が持っている優位性を強化し、中国が追いつけない状況を作ることで、先端半導体を必要とするスマートフォンやデータセンターのサーバー、さらには人工知能(AI)やスーパーコンピュータ、量子技術などの発展を阻害することを目的としている。ただし、注意しなければならないのは、対中半導体輸出規制の強化はあくまでも先端半導体に限定されているものであり、全ての半導体を対象としているわけではない点である。

こうした技術的な優位性を維持し、中国の台頭を阻止するのは、AIや量子技術が次の世代の軍事技術として重要なものであり、この分野での技術的優位性を維持することは、アメリカの軍事的優位性を維持することに直結すると考えられているからである。そのため、半導体は、中国に依存していないにもかかわらず、蓄電池などとともにサプライチェーンの強靭化の対象となり、中国との「部分的デカップリング」を進める対象として強調されているのである。

日蘭両国に試している同盟国の覚悟

10月7日の対中半導体輸出規制強化を通じて、アメリカは半導体技術を西側諸国に囲い込み、中国との技術格差を維持することで、アメリカの軍事的優位性を維持しようとしている。特に半導体製造装置において国際競争力を持つ日本とオランダがアメリカと同等の規制を導入しなければ、中国の技術開発を止めることは困難になる。

ゆえにアメリカは日蘭両国に圧力をかけているが、それは両国の経済的利益とアメリカの戦略的目的を天秤にかけることを求めていることを意味する。言い換えれば、覇権国に挑戦しようとする新興国の勢いを止め、ツキディデスの罠にはまることを避け、中国がアメリカに対して挑戦できないようにするために日蘭両国の同盟国としての覚悟を試しているのである。

(鈴木一人/東京大学公共政策大学院教授、地経学研究所長)

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『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

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