アメリカと中国「半導体めぐる強烈な対立」の重み ツキディデスの罠を避けるため、原則すら歪める

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その意味では、アメリカにおける経済安全保障とは、他国の意図的な攻撃であろうが、自然災害による非意図的な障害であろうが、常にサプライチェーンにおける物資の供給が安定していることが重要となる。

このように見ると、アメリカの経済安全保障は、日本のそれよりも幅の広い概念であり、その違いを十分に認識しないまま、アメリカのカウンターパートと対話・交渉をする場合、話がかみ合わないことがあることに注意する必要がある。

米中対立の文脈

アメリカにおける経済安全保障、すなわちサプライチェーンの強靭化などが大きく取り上げられるようになったのは、バイデン政権になってからであるが、それ以前から経済安全保障と呼ばれてはいないものの、関連するさまざまな出来事があった。

トランプ政権の誕生を支えた、ラストベルト(古い工業地帯である五大湖周辺の州)における経済的苦境は、中国からの集中豪雨的輸出によるものとして、アメリカ通商法301条に基づく中国に対する追加関税をかけるなど、中国への圧力強化と、米中の「デカップリング」を実現することを目指した。

しかし、アメリカの対中依存は容易に変わることはなく、結果として対中貿易赤字を増やす結果となった。さらに、トランプ政権においては、アメリカの基幹インフラに中国製品が多数使われていることを問題視し、特に携帯電話の次世代通信網である5Gから、携帯電話機器最大手のファーウェイをはじめとする中国製品の排除を推し進めた。

こうした、経済的手段を通じて中国に対して圧力をかける、いわゆる「エコノミック・ステイトクラフト」を実施してきたアメリカだが、2020年から新型コロナウイルスによるパンデミックが長期化したことで、世界的な景気後退と、生産や流通の現場での人手不足などが重なり、半導体不足が起こったことで、サプライチェーンの脆弱性を認識するようになった。

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