そのため、バイデン大統領就任直後に大統領令を発して、「半導体」「蓄電池」「医薬品」「レアアース」の4品目に関するサプライチェーンの見直しを行うことを命じた。これら4品目の他にも政府各部局に対してサプライチェーンの総点検を命じたが、そこで重視されたのが、対中依存の状況である。
アメリカが「唯一の戦略的競争相手」として認識する中国に依存している状況は、戦略的な脆弱性を抱えることとなり、中国にチョークポイント(サプライチェーンにおける死活的な物資)を握られることを懸念した。
アメリカの対中貿易政策はトランプ政権が進めた「デカップリング」政策と、バイデン政権のサプライチェーン強靭化を中心に厳しい競争関係にある。第2次大戦後、自由貿易を国際経済秩序の原則としてきたアメリカは、その原則を歪めてでも中国との競争を生き抜こうとしている。こうした中国に焦点を当てた政策は、グレハム・アリソンがいう「ツキディデスの罠」、すなわち従来の覇権国家が、その覇権に挑戦する新興国との間で戦争が不可避になるという状況が、経済分野で起きているということができるだろう。
国際社会におけるアメリカの地位を脅かす存在としての中国に依存することは、ツキディデスの罠においてさらなる脆弱性を生むことになり、その回避がアメリカにとって最優先の課題となっているのである。
半導体の特殊性
そのツキディデスの罠が明確に現れているのが半導体を巡る米中対立である。冒頭に述べた10月7日の対中半導体輸出規制強化は、米中対立の争点となっている蓄電池や医薬品、レアアースなどと半導体は大きく異なる点に注意が必要である。蓄電池は中国製品がグローバル市場の3分の1を占め、その材料となるリチウムなども中国が市場の70%を支配する。医薬品の有効成分(API)もアメリカは多くを中国に依存している。
レアアースは中国がグローバル市場の80%を握っていると言われている。しかし、アメリカは半導体に関しては中国に依存しているわけではない。先端半導体の製造は台湾や韓国、その設計はアメリカ、半導体製造装置は日米オランダに強みがあり、中国はいずれの分野においても劣位にある。つまり、中国は自国で使う先端半導体は台湾から輸入し、自国の半導体産業で使う設計データや装置は西側諸国に依存している。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら