「虐待した親」の心を開くにはどうしたらいいのか 信頼関係を築くにはまず「見ること」が重要だ

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「褒める」「具体的なアドバイスをする」など、効果があるように思われているスキルは、相手を理解し、さらにタイミングやシチュエーションを見極めなければ、確実に親を遠ざけます。

実は、アドバイスをしたり、スキルを使おうとしたりする時、支援者の胸裏には先述した「恐れ」があるといえます。親に嫌われたくない、自分が有用な支援者でありたい、親にコントロールされたくない。自分の中の「不安や恐れ」が高まると、相手を見る前に、先に働きかけをしたくなるのです。

そのことに気づきつつ、相手のニーズを受け止めて行う助言にはもちろん、大切な意味があり、回路をつくるための働きかけになります。

「親の話をまず聞く」という戦略はうまくいかない

支援者向けの研修を行う中で、「親への支援の具体的で効果的な方法やコツ」、「なかなか子どもに向き合えない親への具体的な支援方法」などを知りたい、という声をよく聞きます。支援者の方の、現場で困惑されている切実な状況が伝わってきます。

かつて、私自身もつねに意識はそこにありました。親の困りごとを知る前に、こうしてほしいという私たち支援者のニーズで「こうしてくださいね」とアドバイスをしたり、「子どもは……なので」と説明したくなります。先ほどお伝えしたとおり、これは回路のできない働きかけでした。

よく「こちらの言いたいことを言う時には、親の話をまず聞いてから、その後必要なことを言う」というスキルを聞きます。しかし、「こちらの言いたいことを言うために聞く」という支援者の意識があると、親との回路はできません。逆の立場になるとすぐにわかります。「ああ、この人はこれを言いたかっただけなんだな……。今までは、聞いている〝フリ〟をしていただけだったのだ」と、相手はすぐに気づきます。では、何が必要なのでしょうか。

回路は「見ること」と「応答すること」でつくられていきます。「見ること」とは、まずは今会っている親の様子、親子の様子をよく観察することです。

「今日はどんな調子かな? どうやってここまで来られたんだろう? この服装は? 顔色は?」

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