「農家の収入の半分が補助金」という異常事態 和歌山で見た地方都市の危機と再生の可能性

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紀美野町では、数軒が集落を形成していて、各家には農地が隣接している。その多くは0.25ヘクタール未満で「家庭菜園」のような広さだ。農家が生計を立てるのに十分な市場用作物を生産できず、ほとんど自家だけで消費してしまう。それでも彼らは補助金の対象者であり、税免除もすべての農家に適用されている。

所有者が死亡し子供たちがふるさとに戻らないために、空き家になってしまった家屋や農地を目にした。日本全体では農地の8%が耕作放棄地となり、家屋の13%が空き家になっている。

紀美野町は観光地になることで「消滅」を避けようとしている。町内に真国と呼ばれる地区がある。地区人口はかつて1600人あったのが今は400人。そこで注力するのが以下の取り組みである。耕作放棄地を利用して都市生活者に農業体験させる「真国ファーム」プロジェクト、多彩な芸術展示やフェア、高齢農家が和歌山市内に農産物を出荷する際の支援、地元食材を使ったレストラン開設などだ。

2014年には6年連続でワールドエスニックフェスティバルを開催。運営は主に、りら創造芸術高等専修学校で、海外70組を含む250組が参加、入場者数4000を数えた。この努力は住民の寄付で成り立っている(当初の県の基金を除く)。

紀美野町の人口減少は止まっておらず、昨年は1万人を切ってしまった。が、危機に瀕した地方のほんのちっぽけな地域でも、旅行者を引き付ける可能性があることを示している。

和歌山市の再活性化はトレンドに調和

これとは対照的に、和歌山市で見た再活性化の取り組みは、地域社会に本来あるトレンドに調和しているようだ。和歌山市は製鉄所の千葉移転で大きな打撃を受けた。大型ショッピングモールが郊外にできて、和歌山駅前の「みその商店街」が深刻な打撃を受けたのだ。

この商店街に元気を取り戻そうとする取り組みが、ここで洋風居酒屋を営み、商店街組合の理事でもある有井安仁氏の主導で始まった。手始めに複数のNGO(非政府組織)などに声をかけ、空き店舗を借りて事務所・店舗を開くよう誘致した。やがてNGOが家賃を払うようになり、民間の小売業者も店を開く機運が高まった。空き店舗率は最悪時には60%近かったが、今では約40%まで下がった。商店街が買い物客を引き付けるのに十分な活気を取り戻したからだ。

週刊東洋経済2015年3月28日号

リチャード・カッツ 東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)

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Richard Katz

カーネギーカウンシルのシニアフェロー。フォーリン・アフェアーズ、フィナンシャル・タイムズなどにも寄稿する知日派ジャーナリスト。経済学修士(ニューヨーク大学)。目下、日本の中小企業の生産性向上に関する書籍を執筆中。

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