ショートケーキは「サクサクだった」意外な事実 なぜふわふわのスポンジに?納得の経緯も

拡大
縮小

第一次世界大戦によって欧州が没落、新大国アメリカが勃興すると、日本の外食産業はアメリカの効率的な外食チェーン店経営に注目するようになります。

銀座では星製薬や白木屋などがチャイルズ・レストランをまねたカフェテリア方式のレストランを展開。白木屋の社史『白木屋三百年史』によると、食品サンプルと食券制もまた、支配人がアメリカ視察の際に発見し持ち帰ったものだそうです。

“チエン・ストア全盛時代のアメリカ……そのチエン・ストアのトップをわれに於てきつたものに本郷バーがある。”(実業之日本社編『赤手空拳市井奮闘伝』)

アメリカ式のレストランチェーンを最初に立ち上げたのが「本郷バー」。それを模倣したのが「須田町食堂」。 本郷バーと須田町食堂は、関東大震災後の東京で急速に支店数を増やしていきます。

この時期の外食産業へのアメリカの影響については、洋食大衆化の歴史を描いた拙著『串かつの戦前史』を参照してください。

製菓業界もアメリカ式レストランチェーンに参入

アメリカ式レストランチェーン店の隆盛に感化されて、異業種である製菓業界もレストランチェーンに参入します。 

大江新吉『連鎖店経営法』によると、森永製菓は役員のアメリカ視察後にチェーン店「森永キャンディストア」展開を開始。その一部はケーキ(戦前の森永はケーキを製造)だけでなく、洋食も提供しました。そして明治製菓もまた、チェーン店「明治製菓喫茶室」を展開します。

当然のことながら彼らが参考としたのは、当時最盛期を誇っていた、スポンジ生地のイチゴのショートケーキを出すチャイルズ・レストランだったのでしょう。

不二家に至っては、創業者の藤井林右衛門自身が渡米。その後森永や明治と同じようにレストランチェーンを展開し、ショートケーキも発売します。

こうしてアメリカのレストランチェーンが模倣されるとともに、スポンジ生地のイチゴのショートケーキも、日本で模倣されるようになったと思われます。

近代食文化研究会 食文化史研究家

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

きんだいしょくぶんかけんきゅうかい / Kindai Shokubunka Kenkyukai

食文化史研究家。2018年に『お好み焼きの戦前史』を出版。以降、一年に一冊のペースで『牛丼の戦前史』『焼鳥の戦前史』『串かつの戦前史』『なぜアジはフライでとんかつはカツか?』等を出版。膨大な収集資料を用いて近代の食文化史を解き明かしている。(Amazon著者ページTwitterアカウントnote

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
ビジネスの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT