ショートケーキは「サクサクだった」意外な事実 なぜふわふわのスポンジに?納得の経緯も

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クッキーを大量に、かつ均質に焼くというのは、熟練と時間を要する作業です。

生地をこね、均等に伸ばし、すべて同じ厚さと形に整形し、焼きムラがないようにオーブンで焼く。初心者がクッキーを失敗なく大量に焼くというのは、難しい作業なのです。

ところがスポンジ生地は、マニュアル通りの分量で液体生地を作り、マニュアル指定の温度と時間でオーブンで焼くだけ。初心者でも失敗なく、大量の生地を作ることができます。

しかもクッキー生地のような、こねて整形するという時間のかかる作業は不要。従業員によってムラがでない、均質かつ安い商品を提供する巨大レストランチェーンならではの工夫が、クッキー生地からスポンジ生地への転換でした。

効率化を目指したアメリカの外食産業

アメリカの外食史を研究しているWilliam Grimesによると、チャイルズ・レストランが店舗を拡大し続けていたこの時期の外食産業は、科学的手法を適用し、より良いものをより安くより早く提供する効率化産業(streamlined industry)へと変身を遂げていたそうです(『Appetite City』)。

ショートケーキなどのレシピ見直しによる効率化と、マニュアル化による標準化の徹底はその一環です。他にも学生食堂や社員食堂でおなじみの、トレイを滑らせて客が料理を取るカフェテリア方式も、食事を安く早く提供するために、チャイルズ・レストランが初めて適用したといわれています。

本部の一括仕入れ一括配送、店舗デザインや什器の統一、店員作業のマニュアル化など、チャイルズ・レストランなどが構築したチェーン店システムは、マクドナルドなどのファストフードチェーン、そして今日の日本のレストランチェーンにそのまま受け継がれています。

どこの支店に入っても、均一な品質のリーズナブルな食事とサービスが提供される。現在のレストランチェーン、ファストフ―ドチェーンの基本的なシステムが、19世紀末から20世紀初めのアメリカにおいて作られたのです。

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