米国株を左右するFRBの利下げはいつになるのか 11月の「FOMC議事要旨」で見えてたものとは?

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そのうえで、失業率は現在の極めて低い水準から小幅に上昇し、人手不足感は緩和していくとの見通しが示された。ちなみにここでいう「失業率の小幅な上昇」がどの程度を念頭に置いているかと言えば、それはFRBが9月FOMCで示した失業率見通しの4.4%程度であると推察される。つまり失業率4.4%までは想定の範囲内ということになり、換言すれば、そこに達するまでは金融政策の引き締めが正当化されるということだろう。

次にインフレ動向については、コモディティー価格の落ち着きとサプライチェーン問題の緩和を受けた財価格の低下がインフレ全体を下押しするとの認識が示されたほか、直近の住宅価格上昇ペースが減速していることに対する言及があった。現在インフレの牽引役となっている「家賃」については、速報性に優れたケース・シラー住宅価格やZillow住宅価格指数などが明確に減速しているため、政府統計(消費者物価指数やPCEデフレータ)における「家賃」が低下するのは時間の問題であるとの認識だ。

また、議事要旨に具体的な記載こそなかったが、これまでインフレ率を押し上げてきた中古車の価格も低下する公算が大きい。先行指標として注目されるマンハイム中古車価格指数は直近値が前年比マイナス10.6%へと落ち込んでおり、これを踏まえると今後のインフレ指標は鈍化していく公算が大きい。

2023年中の利下げ開始の足かせとなる阻害要因とは?

そうした認識の下で、大多数のFOMC参加者は「利上げペース鈍化が間もなく適切になる」との見解を示した。

また「金融引き締めが経済活動や物価に影響を及ぼすタイムラグを考慮する必要がある」「利上げペースの減速は金融システムの不安定化リスクを軽減することになる」といった記載があり、金融引き締めが行きすぎてしまい経済に悪影響を及ぼすことを懸念する言及もあった。

こうしたFOMC議事要旨を見る限り、12月FOMCにおける利上げ幅縮小(0.75%→0.50%)の可能性は高いと判断される。

そうなると市場参加者の焦点は、2023年中に利下げがあるか否かに移行していくだろう。早くも金融緩和を意識している投資家も少なくなさそうだが、その点が、FRBを悩ませ続けている、賃金の異常値的上昇とその背景にある労働参加率の停滞についてその改善が遅々としていることを再認識しておく必要がある。

上述のようにエネルギー価格高騰、サプライチェーン寸断、家賃高騰といったインフレ圧力はかなり低減している一方で、最も厄介な「賃金インフレ」は明確に収まっておらず、長期化する可能性がある。

その主因は人手不足だ。当初、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に労働市場から退出した多くの人は、政府からの手厚い給付が途切れ、資産価格(株式)が下落し、インフレが高止まりすればやむなく復職を選択すると予想されていた。だが、パンデミックを契機に早期退職を決めた55歳以上の人々は現在も頑なに労働市場への復帰を拒んでおり人手不足解消の阻害要因となっている。

労働供給の回復なくして賃金の異常値的上昇が解消するとは考えにくいことから、賃金の異常値的上昇が続く下でサービス物価の上昇圧力が残存し、インフレ率が高止まりする可能性は否定できない。政策金利の終着点は徐々に見えてきたとはいえ、利下げを見込む根拠は現在のところ乏しい。政策金利が高止まりするとの予想が支配的になれば、株式市場の空気は再び悲観的になるだろう。

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

藤代 宏一 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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ふじしろ こういち / Koichi Fujishiro

2005年第一生命保険入社。2010年内閣府経済財政分析担当へ出向し、2年間『経済財政白書』の執筆や、月例経済報告の作成を担当。その後、第一生命保険より転籍。2018年参議院予算委員会調査室客員調査員を兼務。2015年4月主任エコノミスト、2023年4月から現職。早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)。担当は金融市場全般。

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