今では希少なFRスポーツ「GR86」発売1年通信簿 兄弟車のBRZとスポーツカーの存在意義を示す

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インテリア
GR86のインテリア(写真:トヨタ自動車)

成功例がマツダのロードスターであり、1989年から30年を超えて存続し続けている。現行4代目の開発責任者は、「スポーツカーを存続するにはそれなりのコツがある」と述べた。GR86とBRZの場合も、2代目へのモデルチェンジにこぎつけた背景には、進化のための開発と同時に、スポーツカーを存続させるための何かがあるはずだ。

シャーシ
GR86のシャーシ(写真:トヨタ自動車)

1つは、容易に想像のつくことだが、トヨタとスバルが基本構想を同じにしてスポーツカーを誕生させることで、両社による販売によって合計の販売台数をより多く確保できる。これによって採算分岐点をなんとか乗り越えることができるだろう。生産工場にとっても、両社で売れた台数を生産するための製造工程を構築できたはずだ。

もう1つは、スポーツカーとはいえ、手動変速(MT)だけでなく自動変速(AT)の車種を設けることにより、幅広い消費者にスポーツカーの運転を楽しんでもらえる機会を設けている。オートマチック限定の運転免許証であっても、スポーツカーを操れる喜びを味わえるのだ。

意外に販売面で貢献しているAT車の存在

エンブレム
GR86の車名エンブレム(写真:トヨタ自動車)

実際、GR86とBRZの販売の中で、MTとATの比率は、GR86の場合でMTが65%でATが35%、BRZの場合でMTが60%で、ATが40%であると、それぞれのメーカー広報が教えてくれた。AT販売の比率が3割を超えているところに、スポーツカー販売の後押しになっている様子が見えてくる。

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もはやヒール・アンド・トーという言葉さえ死語になるのではないかというほど、減速時のダウンシフトでエンジンを吹かし込み、回転数を低速ギアに合わせる機構が自動化されている。レーシングカーにおいても、クラッチを使うのはスタートのときだけといわれて久しい。スポーツカーをATで運転することを恥じる理由は失せている。

そのうえで、あえて手動変速を楽しみたいと思う人に唯一残された選択肢がスポーツカーという時代でもある(一部にMTを残す車種がないわけではないが)。それほど、MTを残すには採算が合いにくい時代にもなっているのである。

GR86に限っていえば、自販連の50位以内になお残しているだけでも立派といえるだろう。そして、歴史を積み上げるロードスターとともに、存続しようと挑戦し続けるトヨタとスバルの意志は、モデルチェンジから1年を経て、間違いなく消費者に届いていると思う。

御堀 直嗣 モータージャーナリスト

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みほり なおつぐ / Naotsugu Mihori

1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。現在、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員を務める。日本EVクラブ副代表としてEVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。

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