小山バス事故「6年前の軽井沢事故」との共通点 不慣れな運転士による事故が後を絶たない理由

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軽井沢の事故では、バス会社が規定を大幅に下回る金額で受注を行うなど、上下関係と言いたくなる状況が明らかになった。今回はどうなのか、さらに捜査を進めてもらいたい。

というのも、今回の事故では、軽井沢の事故と異なり運転士が存命であるためか、多くの責任を運転士に負わせようという傾向が見られるからだ。

たしかに一次的な原因は運転士にあるが、経験の浅いドライバーを充当した背景として、バス業界に問題はなかったか、あらためて検証してもらいたい。

もう1つ、2つの事故で大きく違うのは、報道を見る限り、乗客の多くがシートベルトを着用していたことだ。

乗り物に乗るときは必ずシートベルトを着用したい(写真:tarousite / PIXTA)

事故直前に運転士が危険を察知して、あらためて着用を呼びかけたことや、ベルトが乗用車と同じ3点式だったこと、転落と横転という程度の違いなどはあろうが、乗客全員が死亡あるいは負傷した軽井沢に対し、今回は36人中9人が無傷だった。

それでも死者は出た。筆者はこの状況を前にして、長距離移動は鉄道や飛行機など他の交通を主体として、バスでの移動は最小限に抑えるという以前からの考えを、さらに推し進めようという気持ちになった。

より「安全な移動」のために

バスが危険で鉄道や飛行機が安全だ、と言い切るつもりは毛頭ない。しかし、運輸安全委員会の統計によると、2022年の鉄道事故での「乗客の死者」はゼロなのに対し、バスの死亡事故は今回以外に、8月の名古屋高速道路での横転炎上事故がある。

鉄道の線路には道路ほどの急勾配や急カーブはないし、信号システムや自動列車停止装置(ATS)、自動列車制御装置(ATC)などにより、安全が確保されている。運転士になるにも、多くの鉄道会社では入社後、駅員や車掌の経験を経ることが普通だ。これだけでも鉄道のほうが安全であると理解してもらえるだろう。

もちろん、運賃はバスのほうが安い場合が多いし、乗り換えなく直接目的地に行けるのは便利だ。しかし、筆者は自分自身で長距離ドライブをした経験から、「安全をお金で買う」という選択をする。乗り換えの手間も安全のためと思えば納得できるし、鉄道には定時性や速達性という魅力もある。

今回の事故については、さらなる原因究明を望みたいとは思うが、一方で移動の選択肢として、“安くて楽”という以外の部分に気を遣う人が、もう少し増えてもいいのではないかとも思っている。スマートフォンのナビアプリに、過去の統計などが反映される「もっとも安全」というルートの選択肢があってもいいだろう。

運転士のミスだけに焦点を当て、「それで解決」という結論を出すのであれば、いずれまた同じような事故が起こるのではないかと危惧してしまう。

森口 将之 モビリティジャーナリスト

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もりぐち まさゆき / Masayuki Moriguchi

1962年生まれ。モビリティジャーナリスト。移動や都市という視点から自動車や公共交通を取材。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。著書に『富山から拡がる交通革命』(交通新聞社新書)。

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