トルコが中東地域で孤立感を深める理由 イスラム国とトルコの複雑な関係

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トルコの政治・経済について詳しい国際貿易投資研究所(ITI)客員研究員の夏目美詠子氏

――トルコ政府はどう説明したのでしょうか。

トルコ政府は人質解放の経緯については明言を避けています。トルコのメディアは、トルコと密接な関係にあったシリアの反体制派勢力が、拘束していたイスラム国のメンバー50人の解放に同意し、人質交換が行われたと伝えました。

トルコは、アサド政権打倒を掲げて、2011年半ばから、シリアのさまざまな反体制派勢力に対する政治的・軍事的支援を行ってきました。その中には、アルカイダとつながりを持つヌスラ戦線も含まれていました。イスラム国は、2013年にヌスラ戦線と袂を分かった組織です。トルコがイスラム国のメンバーと何らかの対話のチャンネルを維持していたとしても、不思議ではありません。

――トルコは米国が主導する有志連合に参加しているものの、イスラム国に対する空爆は行っていないし、国内基地の使用も許可していません。サウジアラビアやヨルダンなど中東5カ国は空爆に参加しているのに。

トルコは現在でもイスラム国打倒よりも、アサド政権打倒を優先させるべきだと主張しています。アサド政権は延命のためにイスラム国と「暗黙の協力関係」にあり、政権を打倒すればイスラム国も退潮するという論理です。

矛盾する対クルド人政策

――イスラム国に対してはどういうスタンスなのでしょうか。

Googlemapより

直接対峙するのを極力避けようという姿勢が見られます。それがはっきりしたのは、昨年9月以降激化し、今年1月に収束したコバニを巡る攻防戦です。

コバニは、アクチャカレの北西60キロメートル、トルコ国境から数キロメートルにあるシリア領内のクルド人の町ですが、1年ほど前からイスラム国に包囲された状態でした。それが、トルコで人質が解放された昨年9月半ばに突然イスラム国の大攻勢が始まり、陥落寸前まで追い込まれました。イスラム国と戦っていたのは、シリアのクルド人組織・民主連合党(PYD)で、トルコで1984年から分離独立闘争を行ってきたクルディスタン労働者党(PKK)と密接な関係にあります。同胞を助けようと、トルコからも多数のクルド人の若者が義勇兵となってコバニへ越境しました。

――有志連合は、何かクルド人に対する支援を行ったのでしょうか。

米軍はPYDへの支援物資を投下したほか、イスラム国への空爆を強化しました。ところがトルコは、10月2日にシリア派兵を国会承認したにもかかわらず、国境防衛を強化したのみでコバニの攻防を座視、エルドアン大統領は「PKKもイスラム国同様のテロ組織」だと述べ、PYDへの支援を拒否しました。トルコ経由の支援物資輸送も拒否していましたが、米国の再三の要請を受けて、10月20日にイラクのクルド自治区(KRG)からコバニ救援に向かうペシュメルガ(治安部隊)150人余りの自国通過を認めました。その後戦況はクルド勢力優勢となり、今年1月26日にクルド勢力がコバニ奪還を宣言しました。

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