原発被災地の「鉄道代替輸送」に足りないもの 帰還困難区域内の列車代行バスに乗ってみた

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 しかし、 震災後はその道が途切れた。最大の往来先である東京との行き来は、どう代替されてきたのだろうか?

相馬市内で聞いた話であるが、東京へ行く時は、自家用車で東北新幹線の白石蔵王駅へ出て、新幹線に乗り継ぐことも多いそうだ。道も悪くなく、1時間ほどで行けるという。新幹線の駅が、予想以上に広域的に利用者を集めている例は、白石蔵王に限らず各地で見聞きした。この場合、新幹線駅前に安価に駐車できる駐車場があるかどうかもカギとなろう。

県庁所在地である福島市へ出て、新幹線に乗り継ぐルートはどうか。福島~相馬間、福島~南相馬間は、福島交通の高速バスで結ばれており、各1日4往復。所要時間はそれぞれ1時間30分程度だ。相馬駅には、福島駅発着の「首都圏週末フリーきっぷ」という割引きっぷの案内も掲出されており、福島経由の需要の存在をうかがわせる。

こうした高速バスを利用すると、上野~原ノ町駅前間は3時間30~40分程度で、行き来することができる。「スーパーひたち」だと上野~原ノ町間が3時間10~20分程度であったので、さほど遜色はない。

また、いわき~仙台間も、かつては常磐線特急の需要が高かったが、不通となってからは、同区間の高速バスが事実上の代替輸送機関となっている。震災前は1日4往復だったが、震災後は利用者が集まり、すぐ7往復に増便。現在は8往復が走る。

なぜ公共交通機関同士もっと連携できないのか

広域的には、こうしたルートは「列車の代替」と言うことができよう。地元住民にとって、このルートの存在は周知のことかもしれない。ただ適切な連携や、情報発信、利用促進ができているかどうかとなると、まだ少々心許ない。

例えば原ノ町駅には「原ノ町駅は、バス乗り場ではありません。バスのことは、バス会社へお尋ねください」との貼り紙があり、駅と少し離れた、福島交通などの高速バス乗り場の地図が添えられている。これはこれで適切な案内だが、非常時における公共交通機関同士の連携としては、物足りない。

高速バス乗り場を案内する、JR原ノ町駅の掲示 。非常時の公共交通機関の連携はもっとあって良いはずだ

自社のことで手一杯かもしれないが、なぜ、常磐線復旧までの間だけでも、福島交通のバスを駅前広場に乗り入れさせることができないのだろうかと疑問に思った。日常的なライバル関係を、非常事態が発生しても、そのまま引きずっているだけなのだ。私が試乗した列車代行バスは、駅前広場に発着している。物理的に高速バスが入れないわけではない。  

もちろん、と言わねばならないのが残念だが、JR東日本の公式サイトを見ても、福島~相馬・南相馬間のバスの案内は何もない。こうした、「非常時における、公共交通機関同士の連携不足」は震災の被災地のあちこちで見たことである。調整役の必要性を感じる。  

また、南相馬~福島~上野とバスと新幹線を乗り継ぐと、片道1万0040円かかる。これに対し、従来の原ノ町~上野間の「スーパーひたち」の運賃+特急料金は7980円であった。差し引き、2000円ほどの負担増となっている。被災地域の住民に限り、この差額の負担を軽減する方策があってもよかっただろう。例えばバス運賃(片道1300円)分の公的な補助などだ。  

地域間交流の活性化は、被災地に力を与え、復興への一助となる。鉄道の完全復旧への道のりはまだ遠い。常磐線列車代行バスにしても、状況の変化に応じて、改良、改善していく余地はまだある。不断の見直しは欠かせない。より広い視点での、公共交通機関による輸送手段、輸送ルートの確保が、これからも必要だ。

土屋 武之 鉄道ジャーナリスト

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つちや たけゆき / Takeyuki Tsuchiya

1965年生まれ。『鉄道ジャーナル』のルポを毎号担当。震災被害を受けた鉄道の取材も精力的に行う。著書に『鉄道の未来予想図』『きっぷのルール ハンドブック』など。

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