「タイタニック」大コケ必至と思われた当時の事情 ディカプリオは大ヒットにも複雑な心境だった

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スタジオの読みは正しく、キャメロンは、撮影期間の半分にも達しないうちに、早くも5000万ドル以上の予算を使ってしまった。それでフォックスの映画部門のトップ、ビル・メカニックは、メキシコの撮影現場(メキシコを選んだのも、人件費が安く、コストを抑えられるからだ)を訪ね、予算削減のために削って欲しい箇所をリスト書きした2ページの紙をキャメロンに手渡した。

それを見たキャメロンは、「僕の映画をカットしたいなら、僕をクビにしてください。ただし、クビにするためには僕を殺してもらわないといけません」と強気で反撃。メカニックはそのリストを持ったまま、すごすごとロサンゼルスに引き返すことになった。

とはいえ、キャメロンがまるで気にしなかったわけではない。人様のお金を使いすぎていることに悪気を感じたキャメロンは、監督のギャラをもらうことを辞退している(脚本家としてのギャラはもらっている)。

そんなふうにスタジオとキャメロンが衝突する中、撮影現場でも良くないことが起きていた。スタントマンが複数ケガをしたり、1日の仕事が常識はずれに長かったり、キャメロンがしょっちゅうキレたりという情報が、今日のようなネット社会ではなかったにもかかわらず漏れ伝わってきて、メディアを賑わせることになったのである。この映画の製作状況は、遠くから見る人にとって、文字通り沈んでいく大きな船だった。

当初予定の公開日に完成できなかった

衝突は、フォックスとパラマウントの間でもあった。たとえば、編集作業のためにもっとスタッフが必要となると、その経費をどちらが持つのかで揉めた。当初決まっていた7月2日の公開日に完成が間に合わなくなり、次にどの日を選ぶのかを決めるうえでも、意見がぶつかっている。

フォックスは8月半ばを推したが、アメリカにおいてその時期は夏の大作が出終わっている頃でふさわしくないことから、パラマウントが反対。パラマウントは感謝祭の時期を提案してくるも、フォックスはその時期に別の作品があるため、自社作品と競合させたくないと反対した。そして最終的に12月19日に決まったわけだが、海外配給権を持つフォックスは、東京国際映画祭に出品することでパラマウントより先にこの映画をデビューさせている。

ただし、東京国際映画祭は世界から主要なメディアやジャーナリストが集まる注目度の高い映画祭とは言いがたく、果たしてこの映画の出来がどうなのかは、公開されるまでわからなかった。そんな中でついに公開日を迎えると、見事に首位デビュー。それどころか、この映画はなんと4月初旬までずっと首位をキープすることになったのだ。まさに、めでたしめでたしである。

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