リクルート、"赤字予約サイト"買収の胸算用 ドイツの新興企業買収で狙うものとは?

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「少額出資による検証から、買収を加速させる段階に移行した」と語る佐川取締役

ただし今回のクアンドゥーの買収は、従来のM&A路線とは異なる意味を持つ。飲食分野を含んだ販促メディア事業としては初となる海外企業の大型買収だからだ。

リクルートHDは「2030年に販促領域で世界ナンバーワン」というもう1つの目標を掲げているが、これまでは海外企業9社に対する少額出資にとどまっていた。しかし、ある外国出資企業に対して人口分布や店舗密集度を分析した営業戦術を導入したところ、2カ月で社員1人当たりの売上高が1.5倍になるなど、手応えを感じ始めていた。

「少額出資による海外展開の可能性の検証を経て、買収を通じて加速させる段階に移行した」(佐川取締役)

"稼ぎ頭"に潜む課題

リクルートの販促メディア事業は、グループ売上高に占める比率こそ27%にすぎないが、EBITDAでは5割を占める稼ぎ頭となっている。

結婚情報「ゼクシィ」や住宅情報「スーモ」といったライフイベント分野と、旅行予約サイト「じゃらん」や飲食分野「ホットペッパー」、美容分野「ホットペッパービューティー」という日常消費分野の2つで構成される。自社メディアに広告を掲載する垂直統合モデルによって、高い収益性を確保しているのが特徴だ(じゃらんは手数料収入)。

特に伸び盛りなのが、美容分野。美容室などに対し「サロンボード」というオンライン予約システムを無料提供することで2ケタ成長が続く。この成功モデルは飲食分野にも導入を進めており、相応の販促費を投じてレジアプリ「Airレジ」をiPadとセットで無料配布している。店の基幹システムを提供することで、“切っても切れない仲”を作り出し、広告クライアントを囲い込む戦略だ。

競合他社からは「売り上げ情報から人気メニュー、空席情報まですべてをリクルートに握られることに抵抗を覚える飲食店もいるのではないか」といぶかる声も聞こえてくる。それでも、2014年11月時点でAirレジの登録アカウント数は10万超へと拡大している。

そこまで力を入れる飲食分野だが、競争激化が著しく、2014年4~12月期累計の部門売上高は前年同期比2%増にとどまる。住宅分野にしても、住宅着工件数が減少傾向にある中で大きな伸びは見込めない。結婚式場分野も少子高齢化の流れと無縁ではなく、頭打ちとなっている。稼ぎ頭の販促メディア事業といっても、国内にとどまる限り、伸びしろは乏しい。

先行して世界展開を進める人材派遣や人材メディアと違い、販促メディアは事業領域が多岐にわたり競合他社も多い。今回の買収は、海外の販促メディアでもリクルートのノウハウの有効性が問われる、最初の挑戦となる。住宅、美容、旅行など他の販促メディアでも海外展開を加速させていくために、重要な意味を持つ買収といえるだろう。

前田 佳子 東洋経済 記者

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まえだ よしこ / Yoshiko Maeda

会社四季報センター記者

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