嫌われる退職エントリーを書く人の決定的な欠落 自己愛と承認欲求に溢れる文面に透ける底の浅さ

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こうした退職エントリーは、あとあと面倒なことになるリスクがあります。転職先の会社の関係者が読めば一緒に働きたい人とは感じてもらえにくくなるかもしれませんし、同業他社や取引先の人たちが冷ややかに見たり、在籍していた会社の関係者にとっては不快に思われたりすることだってありえます。いざとなったときに「出戻り」したいとなっても、嫌われていると受け入れてくれないということにもなりかねないのです。

筆者は、批判や自己喧伝、マウントにあふれる文章を書くぐらいなら、「退職エントリーは書くべきではない」と考えています。客観性を欠いた事実を、自分の都合の良い主観のみでとらえて書く価値はないからです。

退職エントリーで成功を鼻にかけるような雰囲気が漂うと、陰では反発が押し寄せてきます。そのため、他人がどう思うかという客観的視点が必要になります。

成果を上げたとしても、それが本当に自分1人で成しえたことなのか。職場や仕事、業界に不満や問題点があるから去るとしても、そうせざるをえない背景を無視して自分の主張ばかりを並べていないか。批判や自己主張するにしても、一方的ではなく、さまざまな点を考え尽くし、バランスを取ったうえで文章を書くのが望ましいのです。

そのように考えれば、「謙虚さ」は事態を和らげる最も有効な手段の1つといっても過言ではありません。

「うまくいったのは皆さまのおかげです」

「たまたまツキがあっただけです」

「会社の多大な支援があったことは言うまでも有りません」

など、謙虚な意識を持つ人は、退職エントリーの内容がまったく異なり、周囲の受け止め方も好意的となります。

「仕事人」としての力量がにじみ出る

退職エントリーの多くは「自己愛」と「承認欲求」に満ちています。どんなに素晴らしい視点だったとしても、それだけでは読者の納得を引き出せません。謙虚さや周囲への配慮の気持ちが見られてはじめて「温かく見守る」という読者の意識を引き出せるのだと思います。

退職エントリーで評価を上げる人もいれば下げる人もいる。事実に対して客観的な評価を下しながら、周囲への配慮を見せて人心をつかめるかなど、退職エントリーを書くことは「仕事人」としての力量がにじみ出る、実は極めて難易度の高い仕事なのです。

尾藤 克之 コラムニスト、作家、著述家

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びとう かつゆき / Katsuyuki Bito

東京都出身。議員秘書、大手コンサルティングファームで、経営・事業開発支援、組織人事問題に関する業務に従事、IT系上場企業などの役員を経て現職。現在は障害者支援団体のアスカ王国(橋本久美子会長/橋本龍太郎元首相夫人)を運営しライフワークとしている。NHK、民放のTV出演、協力多数。コラムニストとしても、「JBpress」朝日新聞「telling,」「オトナンサー」「アゴラ」「J-CASTニュース」で執筆中。『あなたの文章が劇的に変わる5つの方法』(三笠書房)、『即効! 成果が上がる 文章の技術』(明日香出版社)など著書多数。埼玉大学大学院博士課程前期修了。経営学修士、経済学修士。

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