ミサイル発射の「次」に迷う北朝鮮の切実な事情 金正恩「核実験したい」と「経済改善」の狭間で…

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丹東市に住むある中国人ビジネスマンは、「物資の往来が再開し始めた。11月ごろには人の往来も本格化するだろう」と打ち明ける。実際には、2021年ごろから何回か鉄路、陸路による貿易再開の動きがあったが、新型コロナの感染拡大が中朝双方で発生し、そのたびに止まってきた経緯がある。だが、今回は地元でも本格的な再開で中断されることはないだろうと期待されている。

というのも、「北朝鮮側からの再開の要望がとても強い。これまでの3年弱の国境閉鎖により、何か作ろうにも原材料がほぼ枯渇し、原資材の輸入を渇望している」(前出の中国人ビジネスマン)。この現状を改善するためには中国との貿易を拡大するほかないという事情がある。

人的な理由からも、北朝鮮としては国境を開ける必要に迫られているようだ。それは、コロナ禍前に外国に滞在していた北朝鮮労働者が、まったく帰国できていないためだ。今回の再開で陸路によるルートが正常化すれば、彼らもいったん帰国した後にまた出国させられるし、あるいは新たな労働者を海外へ派遣できる。

「金総書記と会う」は日本の空念仏か

とくに女性の労働者の場合、帰国できずに海外に留め置かれているのは20代の若い人が多く、結婚や両親、家族の世話といった個人、家庭の事情を抱えて帰国を待ち望んでいるという話も出ている。そのため、「彼女たちを帰国させるのも北朝鮮当局にとっては大事なことのようだ」と、前出の中国人ビジネスマンは付け加える。

貿易全体も、コロナ禍前の2019年の水準を超えそうな勢いだ。中国の税関統計によれば、2022年に入り北朝鮮から中国へタングステン鉱や製鋼用脱酸剤として使われるフェロシリコンの取引がとくに増えている。これらは国連安全保障理事会による経済制裁対象外の品目だ。とくにタングステン鉱の輸出額は8月だけでも1000万ドルを超え、コロナ禍前の2019年通年の実績を超えた。

こうなると、北朝鮮には中国への配慮も必要となってくる。地域情勢の安定を第一に考える中国からすれば、北朝鮮が自分たちの隣で核実験を行うことは非常に都合が悪い。米中対決が続いている中、アメリカをさらに刺激する北朝鮮の核実験はなんとしても避けたい。

「核武力の完成」を国家目標と定めた金総書記にとっては、核実験を実施したいだろう。しかし経済改善が最重要課題であれば、中国との貿易を安定的に行うのは必須だ。だが、国内経済と国際環境ともに北朝鮮にとって決して有利なものではない。

日本にとって今回のミサイル発射は、北朝鮮による脅威を改めて実感することとなった。岸田文雄首相は10月3日の国会での所信表明演説で、「条件を付けずに金正恩委員長と直接向き合い、日朝平壌宣言に基づき、拉致、核、ミサイルといった諸懸案を包括的に解決し、不幸な過去を清算して、日朝国交正常化の実現を目指す」と述べたばかりだが、そんな北朝鮮と具体的にどう向き合うのか。核実験も、金総書記が決心すれば、いつでもできる状態にあるのは確かだ。

故・安倍晋三、菅義偉・両元首相が提唱してきた「条件を付けずに金総書記と会う」という主張は結構だが、会うには相手をその気にさせなければならない。着々と核・ミサイル兵器の完成に向けて進む北朝鮮を止めることはできるか。また、日本への敵意をなくすことはできるのか。核廃絶を強く願う岸田首相だが、口先だけでは、事態は何も改善しない。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『金正恩の「決断」を読み解く』(彩流社)、『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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