北朝鮮大使の談話は日朝関係改善のシグナルか 日朝平壌宣言から20年、日本に好感持つ金正恩

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北朝鮮と日本はこのように、平壌宣言が履行されない責任を互いに押しつけ合っているが、双方を不必要に刺激したり、感情的にならないように批判レベルを調整しているという微妙な動きも見せている。

2022年9月16日の宋大使の談話も、「歴史的な朝日平壌宣言は、両国間の忌まわしい過去を清算し、新たな関係が始まりうるという期待と希望を内外に与えた」とし、その意味を付与している。

日本の責任を指摘し北朝鮮への無分別な策動を「必ず計算する」との立場を暗に示しながらも、談話の最後には「朝日関係が今後どのような方向へ向かうかということは、全面的に日本政府の態度いかんにかかっている」との余地を残したことも同様だ。

これは、最近になって韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権に対し、核による脅威を示し、かつ強い語調で批判した後、「(尹大統領を)まったく相手にはしない」という立場を明らかにしたときとは対照的だ。

経済改善こそ権力の基盤

注目すべきは、北朝鮮が談話全体を通じて平壌宣言の意味を貫く基本精神に言及し、日本の植民地支配に対する応分の賠償と補償を強調していることだ。平壌宣言が発表された当時、小泉元首相は日本による植民地支配について、「痛切な反省と心からのお詫びの気持ち」を明らかにし、北朝鮮に対し有償・無償の経済支援を行う意志を見せた。

これは日韓間における請求権協定を参考にしたものと言える。韓国と日本は1965年6月、国交正常化のための日韓基本条約において、「大韓民国と日本国の間の財産および請求権に関する問題の解決と経済協力に関する協定」(日韓請求権協定)を締結した。

これにより日本は、韓国に無償3億ドルの支援と2億ドルの借款支援を行い、韓国は日本に対する請求権を放棄した。20年前、日朝関係が急進展を見せていた当時、専門家の中には「対北請求権の金額は50億~100億ドルになる」と指摘する人もいた。また、日韓請求権協定を基にすれば、「現在では少なくとも200億ドルにはなるだろう」との観測も出たことがある。

2012年から始まった金正恩(キム・ジョンウン)政権は、自国を核保有国だと宣言していたが、2022年8月には「核武力政策の法令化」まで言及した。とはいえ、金正恩総書記にとっては、北朝鮮経済の再建が何よりも重要だ。

平壌総合病院の建設や、北朝鮮東部・元山葛麻海岸観光地区事業に至るまで、金総書記自らハッパをかけて主導してきたプロジェクトは支障を来している。たとえ核兵器を持つと主張する貧国の最高指導者とはいえ、経済を改善させないとそのリーダーシップを国民が十分に受け入れることは厳しい。

だからこそ金総書記の脳裏には、日朝関係改善による請求権資金の確保と、これによる北朝鮮経済の開発という青写真が描かれているという観測が出ているのも、このような背景からだ。

ある政府系研究機関の研究員は「金総書記が必要だと判断すれば、日朝関係を一気に進展させるために、拉致問題への姿勢などをこれまでと一転させて臨む公算がある」と述べた。

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