アメリカ揺るがす「MAGA共和党員」の新選挙戦略 「選挙陰謀論」から選挙運営の実務も覆す手法

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今夏、ミシガン州におけるMAGA共和党の「選挙区戦略」の取り組みがリークされ、政界で一時話題となった。一部の州ではこれら投票所係員となったMAGA共和党員に対し研修プログラムを設け、不正などを記録し、通知できる弁護士なども揃えようとしていることが明らかとなった。

選挙後に証拠集めに奔走した2020年大統領選と異なり、2024年大統領選に向けては選挙後に司法で争うための綿密な準備をしている。不正選挙が実施されていると確信するMAGA共和党員の多くは、激戦区や民主党が強い選挙区で投票所係員となり、現場では公正な選挙運営自体ではなく選挙不正を探しだすことに注力することが予想されている。たとえば投票所係員は投票者のアメリカ国籍を疑ったり、二重で投票している可能性を疑ったりとさまざまな難癖をつけることで投票所で混乱が起こりかねない。

1つの選挙区でも結果が争われれば、アメリカの選挙制度全体への信頼が損なわれるリスクがある。共和党が多数派の州議会であれば、その州全体の選挙結果が争われる可能性さえある。ましてや2024年大統領選が接戦となれば勝敗にも影響が及ぶ可能性すらある。

産業界も危機感を持ち始めたアメリカ政治

MAGA共和党の新たな選挙戦略は、これまで政治的影響が限定的であった選挙運営の実務そして審判、ルール自体を入れ替えようとする前代未聞の試みだ。

そもそも正常に機能してきた選挙制度で、2020年大統領選以降にまかれた不正選挙という陰謀論の種。2020年大統領選でのクーデター未遂後も押しつぶされることなく芽を出し、2022年中間選挙に向け成長し続けている。次期以降の大統領選には花を咲かせ、アメリカ史上初めて、国民が選んだ大統領を覆す、あるいは憲法が機能しない危機で大混乱となるリスクも秘めている。アメリカで2世紀以上も続いてきた選挙制度が容易に機能不全となることはないにしても、いずれは選挙制度に対する国民の信頼が失われることで、アメリカの民主主義は根底から揺らぎかねない。

ハーバード大学ビジネススクールのレベッカ・ヘンダーソン教授は「民主主義の脆弱化は資本主義の正当性と健全性にとって重大な脅威」と指摘している。今日、全米商工会議所をはじめアメリカ産業界も危機感を持ち民主主義重視の姿勢を見せ始めている。

アメリカ産業界では従来の「企業の社会的責任(CSR)」だけでなく、「企業の政治的責任(CPR)」が語られるようになった。つまり従来と違い、アメリカ世論は社会問題解決において企業が傍観していることを許さず、民主主義維持のために政治面でも企業に積極的関与を求める時代に入った。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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