アメリカ揺るがす「MAGA共和党員」の新選挙戦略 「選挙陰謀論」から選挙運営の実務も覆す手法

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トランプ前大統領の「2020年大統領選は不正」という主張を信じる人々が草の根運動を展開している(写真:Bloomberg)

アメリカの選挙で不正が起こる確率は、人が雷に打たれる確率をも大幅に下回る(注1)。だが、共和党支持者の6割以上がいまだにバイデン大統領は2020年大統領選で不正に当選したと捉えている(注2)。今やその不正選挙の陰謀論がトランプ前大統領を支持する「MAGA(Make America Great Again、アメリカを再び偉大に)共和党員」の原動力になっている。

(注1)ワシントン・ポスト紙の調査によると、2000~2014年の10億以上にのぼる投票のうち、なりすまし投票として確認できたのはわずか31件。国立気象局(NWS)によると人生(80歳と推定)で人が雷に打たれる確率は0.0065%。したがって、投票詐欺の確率は雷に打たれる確率の約2100分の1。
(注2)マンモス大学(Monmouth University、ニュージャージー州)の2022年9月末調査では、全国民の29%がバイデン大統領は2020年大統領選で不正に当選したと信じている。

2020年大統領選の翌週、サイバーセキュリティ・社会インフラ安全保障庁(CISA、Cybersecurity and Infrastructure Security Agency、国土安全保障省の傘下の機関)が同選挙は「アメリカ史上でも最も安全な選挙であった」との声明を出した。さらにトランプ前大統領支持派は選挙不正について司法を通じ争ったがことごとく敗訴した。

トランプ陣営は最終手段としてバイデン大統領の就任2週間前に連邦議会乱入事件を起こして実質クーデターを試みたものの、議会は2020年大統領選結果を承認した。バイデン大統領就任とともに、選挙不正の訴えはいずれも退けられ、選挙結果を覆す試みは失敗に終わったかのように見えた。

それでも、アメリカ民主主義の基盤となっている選挙制度は、現在も全国にちりばめられた陰謀論によって蝕まれ続けている。

激戦州を制する可能性もある選挙陰謀論者

従来、選挙が不正に操作されているという主張は民主党の間で頻繁に聞かれた。民主党急進左派のバーニー・サンダース上院議員などは、大統領選の民主党予備選が主流派にとって有利な仕組みとなっていることを訴えてきた。また2018年ジョージア州知事選では、投票権の抑圧を問題視し民主党ステイシー・エイブラムス候補が選挙結果を受け入れなかった。

だが、今日の選挙に対する不信感は次元が異なる。いまだに共和党内で最も人気が高い事実上のリーダーであるトランプ氏の働きかけにより、2020年大統領選は不正選挙であるとの訴えが、全国的なムーブメントとなっている。

その証拠に、全米各州の共和党予備選で不正選挙を訴える候補が次々と勝利している。選挙予測を手掛けるファイブサーティエイト社によると、11月の中間選挙の本選では、2020年大統領選を不正と訴えた共和党候補者が争っている選挙区は国民の6割の居住地だという。

2022年中間選挙は共和党にとっての大波とはならず、さざ波となるという見方が大勢だが、激戦区ではMAGA共和党員の候補がわずかな波に乗って勝利することもありうる。

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