アメリカ揺るがす「MAGA共和党員」の新選挙戦略 「選挙陰謀論」から選挙運営の実務も覆す手法

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アメリカでは、大統領選を含む連邦レベルの選挙も州政府など地元の選挙運営に委ねられている。州務長官(Secretary of State、SOS)が選挙運営を管轄しているケースが多い。

2022年中間選挙では州務長官選が行われる27州のうち11州で、不正選挙の陰謀論を唱える共和党候補者が本選に臨む見通しとなっている。こうした州では州務長官が各種手続きを煩雑にすることで民主党支持者のほうが多いマイノリティの投票権を抑圧するリスクなどが想定されている。これら陰謀論を唱える州務長官は「アメリカ第一主義州務長官連合(America First SOS Coalition)」を創設して州を越えて連携している。

また州知事選が行われる36州のうち15州で陰謀論を唱える共和党候補が本選に進んでいる。州務長官と違い、州知事は行政命令や議会の協力も得て州の選挙法を改正することまで可能だ。その中にはアリゾナ州、ミシガン州、ペンシルベニア州など、2024年大統領選で接戦となりうる州も含まれる。

州知事や州務長官は州民が選んだ民主党大統領候補の勝利を認定せず、州民の意に反し共和党大統領候補の勝利を認定することもありえ、次期大統領選は憲法危機に直面するリスクさえある。2020年大統領選ではトランプ大統領自らの圧力など民意に反する動きを共和党主流派の州知事や州務長官などが阻止したが、2024年大統領選では陰謀論を唱えて当選した共和党知事や州務長官が異なる行動を取る可能性もある。

民主主義を蝕む新たな手法「選挙区戦略」

さらに懸念が高まっているのが、各選挙区での選挙運営だ。トップダウンだけでなく、今日、ボトムアップで選挙制度への不信感を高めるMAGA共和党員の草の根運動が始動している。

「選挙区戦略」はもともと、アリゾナ州のティーパーティー活動家ダニエル・シュルツ氏の構想であったが、トランプ前政権発足時にホワイトハウスで首席戦略官を務めたスティーブ・バノン氏が自らのテレビ番組・ポッドキャストを通じて一気に広めた。

同戦略では、従来、政治の影響を受けず選挙運営に携わってきた下級職員をMAGA共和党員に入れ替え、選挙を運営する共和党上層部に至るまでMAGA共和党員に置き換えていくことを狙っている。以前より、投票立会人については各政党が人材を派遣し、選挙が確実に実施されていることを監視してきた。だが、投票所の受付や補助など選挙の実務をこなす投票所係員などは政治思想が業務に影響することはなかった。投票所係員まで不正選挙を確信しているMAGA共和党員に置き換えるのは新たな戦略だ。

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