日本を貧しくしている「安売りだけ愛する人たち」 「安い=善」という呪縛から解放されよ

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ではなぜ、日本人はそうした呪縛にとらわれているのか。その源流は戦後日本の貧困にあったのではないかと、私は考えている。戦争に負け、日々の生活必需品にも事欠く中、多くの産業人たちが商品や製品を広くあまねく世の中に行き渡らせることを自分たちの使命とした。ゆえにそこでは、「とにかく安くすること」が優先課題だった。その後、大量生産によりコストは下がり、日本人は良い商品を安く手に入れることが可能になり、生活のレベルもどんどん上がっていった。

そして、そんな先人たちのおかげで、日本は奇跡と呼ばれるような復興を成し遂げることができた。そのことに対して、われわれはいくら感謝をしてもしきれない。

ただ、平成になったあたりから、明らかに世の中の流れが変わってきた。生活必需品はほぼ全国民に行き渡り、誰もがそれなりの生活レベルを維持できるようになった。いわば「1億総中流」だ。「必要なものをなるべく安く」という時代は終わったと言っていい。

しかし、われわれビジネスパーソンの意識は、その当時のままであるようだ。

私が長らく主宰しているビジネスの会・ワクワク系マーケティング実践会の会員の中にも、「値上げするのはお客さんに悪いことだと思っていました」と言う人がかなりいる。先日もセミナーでこの「安さの呪縛」の話をした際、反応が大きくて驚いた。それほど多くの人がこの呪縛にとらわれていたことを、改めて思い知らされた。

これはデフレの影響も大きいだろう。ここ20年ほどデフレが続き、しかも企業やお店が「頑張った」ことで、価格が固定化されてしまった。そのせいで、「価格を上げるのは悪」という意識が残り続けてしまったのではないだろうか。

むしろ、年々初任給が上がっていた高度成長時代のほうが、価格の流動性が高かったように思う。それこそ毎年、ひょっとすると半年に一度くらいの割合で値上げをしていたのではないだろうか。しかし、それが批判されることもなければ、今日のようにニュースになることもなかった。

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