整形外科医が解説「骨盤のゆがみと不調との関係」 代謝の低下、冷え、肥満などの原因といわれるが

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――産後の骨盤は勝手に閉じていくものなんですね。

Koala:そうです。恥骨結合離開の場合でさえ、つまり恥骨が離開していても数カ月程度で自然と元に戻るんです。整形外科を受診された場合は診断、ご説明のうえで安静にするようお伝えし、痛みのコントロールのために患者さんと相談しながら消炎鎮痛剤などを処方することもあります。

――産後ダイエットは骨盤を締めることから……というのも目にします。

Koala:産後であろうとなかろうと、体型維持やダイエットと骨盤の形態はまったく関係ありません。骨盤の形は変わらないからです。「産後骨盤矯正で体型を元に戻す」というのは、「骨盤の形態とは関係ない腰椎あるいは股関節周囲の運動、ストレッチ」をしてカロリー消費を促しているのだと思います。

骨盤の傾きが問題なのか?

――骨盤の傾きを整えることで均等にするといった理屈も耳にします。

Koala:それも医学的にはおかしいですね。もともとの骨盤の形状には個人差があるかもしれませんが、やはり何らかの手技で形を変えることはできません。変えることができたら骨折しているでしょう。それに、骨は上から順に、脊椎、骨盤、股関節と連なっていて、その位置関係を変えることはできません。

また、骨盤が前後左右に傾いているといっても、その骨の並びを手で変えることはできません。

――「骨盤矯正」の施術前後で脚の長さが変わるようです。

Koala:「骨盤のゆがみのせいで左右の脚の長さが異なっていましたが、骨盤矯正で改善しました」といったものですね。問題の1つに脚の長さの比較の仕方があります。施術前後の写真でよく見るのは、かかとの部分で脚の長さを比べたもので、それでは正確に脚長差を測ることはできません。実は脚の長さの測り方が正しくないのです。

また、股関節や下肢の疾患が原因で脚長差が出ている場合、手技で脚長差が改善したりはしません。脚長差を改善させるためには手術が必要です。

――では、これだけ「骨盤矯正」が広まったのは、なぜでしょう。

Koala:あくまでも個人的な推測ですが、なぜか人体において骨盤が聖域化され、「骨盤がゆがむと、血流が滞ったり、姿勢が悪くなったりして、さまざまな不調の原因となる」、「骨盤を矯正すると、血流や姿勢がよくなり、結果的に全身の調子が整う」というイメージが定着してしまったからでしょう。特に「骨盤矯正」は女性向けといった感じがします。妊娠や出産につなげられるのも、そのせいかなと思いますね。

――「骨盤がゆがんでいる」と言われると、ドキッとします。

Koala:そうですよね。「こんなに骨盤がゆがんでいると、元に戻すのに時間がかかります」「産後の数カ月の間に矯正しないと、骨盤が開きっぱなしになります」などと言われると、多くの人は不安になるでしょう。こういった医学的に根拠のない説明は問題だと思います。特に女性にとって妊娠、出産、育児の時期は心身共に負担が増えるときですから、気をつけていただきたいですね。

――確かにそうですね。では、どんなふうに考えたらいいでしょう。

Koala:個人的には、骨盤まわりであろうと足腰であろうと、マッサージやストレッチなどの手技を受けることによって、気持ちよくなったり、リラックスできたり、痛みが軽減できたりするなら、それはとてもいいことだと思っています。「骨盤矯正」などという不正確な言葉に惑わされることなく、全身をほぐすこと、リラックスすることなどを目的として、うまく付き合っていくといいのではないでしょうか。

Dr.Koala(ドクターコアラ)
整形外科専門医、医学博士。大学病院、市中病院に勤務後、整形外科クリニックを開業。診療の傍ら、インターネット上で情報提供を行っている。様々な分野の専門家との共著書に『子どもを守るために知っておきたいこと』(星海社)がある。
大西 まお 編集者・ライター

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おおにし まお / Mao Onishi

出版社にて雑誌・PR誌・書籍の編集をしたのち、独立。現在は、WEB記事のライティングおよび編集、書籍の編集をしている。主な編集担当書は、森戸やすみ 著『小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』、宋美玄 著『産婦人科医ママの妊娠・出産パーフェクトBOOK』、名取宏 著『「ニセ医学」に騙されないために』など。特に子育て、教育、医療、エッセイなどの分野に関心がある。

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