日本人が知らない「政治と宗教」根深い心理問題 「敵認定」で排除すればコントロール不能になる

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自分や自分が所属する集団の意見を攻撃しているように感じられる議論を、反射的に拒絶するようになっていく。

多数派も少数派もどちらも孤立している

反対意見に耳を傾け、それを真剣に受け止めて自分の考えを変えようとするには、精神的、感情的な努力や、なにより強い忍耐力が必要になる。なぜ、これほど難しい作業を、理不尽で、他人をバカにしている、共通点のない人たちの意見を聞くことで、さらにややこしくしなければならないのか?

それは、事実にもとづいて議論すべき本来の論点が「『私の側』の正しさは証明されるだろうか? それとも恥をかくだろうか?」といった個人的な思惑にどんどんズレていくことで、課題の解決が遠のいてしまうからだ。

無神論者とキリスト教徒について考えてみよう。

無神論者はアメリカでは差別を受けやすく、居心地の悪い思いをしている。「不道徳だ」と言われることも多い。そのため長い間、「自分を隠さなければならない」と感じ続け、最後に「カミングアウト」したという無神論者の話もよく耳にする。

2019年に実施されたギャラップ社の世論調査によれば、「支持政党に優秀な議員がいても、その人が無神論者だったら投票しない」と答えたアメリカ人は40%にも上る(同じ条件で、その議員がユダヤ人もしくはカトリック教徒だった場合に投票しないという回答はそれぞれ7%と5%だった)。

これに対し、福音派キリスト教徒(プロテスタントの一つの流派。非常に保守的な思想で知られる)は信仰を同じくする家族やコミュニティーとともに生活していることが多いため、無神論者と同じような苦悩は味わっていないが、中絶の合法化、同性婚、メディアの性的表現など、過去半世紀にアメリカで起きた法律的、文化的な変化に疎外感を覚えている。

強い圧力をかけられた炭素原子が結合してダイヤモンドになるように、「敵に囲まれている」という感覚があると、人間の考えは凝り固まってアイデンティティーになりやすい。

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