和田秀樹「老いとは同世代に障害者が増えること」 体が不自由でも周囲に頼って人生を楽しんでいい

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ところが70代は油断できません。車でいえば経年劣化は確実に進んでいますから、どんなに点検整備を繰り返しても、予想もできなかった思いがけない病気が見つかったり、突然の発症をすることがあります。

たとえば脳梗塞や脳出血のような血管系の病に襲われて長く入院したり、リハビリ生活を余儀なくされたり身体に麻痺が残るようなことです。心筋梗塞のような循環器系の病気で長い療養生活を送ることもあります。

どちらにしても、衰え始めた体力は大きなダメージを受けますから、症状が治まっても日常生活にいろいろな不便が生まれたりします。つまり、ある日から突然自分が障害者の仲間入りをしてしまうのです。

70代後半、あるいは80代となれば、認知症になる人も増えてきます。高齢になるということは、自分を含めた同世代に一人また一人と、どこかに障害を抱えた仲間や友人が増えてくるということなのです。

実際、たまに連絡を取り合う古い友人からも、「あいつが倒れたらしい」とか「リハビリを頑張ってるらしい」といった情報が伝わってきます。年末になると、友人や知人の家族から「△△逝去につき」といった葉書が届いて驚くのも70代から80代にかけての時期です。

不安に囚われると自由を楽しみ尽くせない

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そういう報せに接するたびに、「用心しなくちゃ」とか「もう何かあってもおかしくない歳なんだな」と感じます。「私は運がいいだけかもしれない」と気持ちさえ生まれてきます。

でもそこで、不安を膨らませて縮こまって生きても同じことです。予期できない病や事故はいつ襲ってくるかわからないのです。不安に囚われてしまうと、自由を楽しみ尽くすなんてできません。

それくらいならむしろ、共生の感覚を持ったほうがいいのではないでしょうか。

つまりさまざまな障害を抱えた同世代の人間と、あなたも一緒に生きているという感覚です。たまたま自分は歩ける、たまたま自分は元気に暮らしているというだけのことで、同世代のみんなと同じ空気を吸っているのです。

「歩けないやつには肩を貸して、とにかく元気でやっていこう」。そんな、共に生きる感覚を失わないでください。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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