アメリカの株価はもう一段下落するときが来た FRBは「インフレ沈静化」のためにも株価を調整
話は約1カ月前にさかのぼるが、8月26日にアメリカのワイオミング州ジャクソンホールで行われたFRB(連邦準備制度理事会)のジェローム・パウエル議長の講演は、やはりその後の流れをガラリと変えたほど、市場全体にインパクトを与えるものだった。
30分の予定に対して、実際は「たった8分間」という短いスピーチは、その内容こそ「インフレを抑制するために積極的な金融引き締めを進める」という従来の流れを継ぐもので、特にサプライズというようなものはなかった。
だが、政策方針や物価、経済の見通しに対して、市場の期待を高めるような「あいまいな表現」を一切用いることがなかったという点で、従来とは大きく異なるものだったと言える。講演時間の短さも、かえってそうした印象を強めることになったのかもしれない。このままインフレがピークアウトし、FRBが早ければ来年にも利下げに転じるかもしれないという市場の楽観的な見通しも、大幅に後退したと見たい。
FRBは景気と需要が十分落ち込むまで利上げを進める
積極的な金融引き締めの副作用として、景気が必要以上に落ち込んでしまう可能性に関しても、議長はそうしたリスクがあることを率直に認めた。
そのうえで、「将来的にインフレが一段と進むことがあれば、市場はさらに大きな痛みを経験することになる」との見方を示し、「物価抑制のためならリセッション(景気後退)に陥ることもいとわない」という強いメッセージを市場に伝えることに成功した。
これに関しては、ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁が、パウエル議長によるジャクソンホール講演後の株価の急落について、「FRBがインフレ抑制に真剣だと投資家が理解している表れであり、好ましいと感じた」とのコメントを残している。FRBの高官が株価の急落を「好ましい」と評価することはやはり異例の事態であり、それだけ急速に需要を落としていく必要に迫られているということだろう。
今回の急速なインフレは、FRBの積極的な金融緩和や政府の大幅な財政支援によって、新型コロナウイルスによる感染爆発後の景気の落ち込みを急速に回復させたことで生じた。需要の急増に、コロナの感染拡大に伴うサプライチェーンの問題や労働力不足が重なっただけでなく、2月のロシアによるウクライナ侵攻を背景とした商品市場急騰という供給面の問題も重なった。これらが複合的に起きたことによってインフレが深刻化しているのは間違いない。
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