日本でも「女性の戦闘機乗り」は生まれるのか 安倍政権下で自衛隊も「働き方改革」

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これについてスウェーデン政府は、女性がこうした勤務に耐えられるかどうかの調査を実施した。その結果、統計的に女性の肉体的条件が潜水艦勤務に障害にならないことが証明され、再度全ての職種が女性に開放されることになった。

それでも実際に女性が配置されているのは、国際平和活動の分野が多い。指揮クラスの幹部軍人の中には、いまだ女性に戦闘職種に従事させることに抵抗を感じる者もいるからだ。

ドイツではもっぱら非戦闘任務

一方で、日本と同様に第二次世界大戦まで男性優位の民法が存在したドイツはどうか。

ドイツでは基本法で禁じられていたため、衛生部隊勤務を除いて長らく軍隊での女性の登用は実現しなかった。それを不服に思う女性から何度か提訴もされたが、いずれも憲法(基本法)違反として退けられてきたのである。

それを変えたのは、女子電子技術者が入隊を拒否された件でEU司法裁判所に訴えたクレール事件だ。EU司法裁判所が2000年に下した判決により、ドイツは2001年から女性に全ての軍務を開放することになった。とはいえ、実際には女性軍人はもっぱら非戦闘任務に充てられているというのが現実だ。

では日本はどうなのか。検討の結果、全ての配置を女性自衛官に開放することは可能なのか。たとえば潜水艦乗務がどのように母性に影響するかについては、スウェーデンのデータが参考になるかもしれない。しかし実際に、軍内の情報を外国に渡すことは通常はありえないため、それを頼りにすることは難しい。

また男女の性差についての考えは国によって相違があり、体力にも人種間で差があるため、外国のデータに基づいていちがいに決することはできない。性差に基づく能力の差異が存在する以上、入口の問題として全ての配置を開放したとしても、具体的にどこに配置するべきかという問題になると別の考慮が必要だろう。

とはいえ、女性自衛官のこれからの活躍に大いに期待できる。今年初めて陸海空の自衛隊から1名ずつ、女性の佐官(1佐)が3名誕生したからだ。

彼女たちは、女性の入学が初めて認められた1992年に防衛大学に入学した。苦しい訓練を耐え抜いてきており、体力も頭脳も同期の男性に勝るとも劣らない。こうしたフロントランナーが次々と出ることで、女性自衛官の雇用のあり方も変わってくるに違いない。

実際の問題として女性自衛官配置の完全開放にはもう少し時間がかかるだろうが、一歩ずつ進んでいきそうだ。

安積 明子 ジャーナリスト

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あづみ あきこ / Akiko Azumi

兵庫県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。1994年国会議員政策担当秘書資格試験合格。参院議員の政策担当秘書として勤務の後、各媒体でコラムを執筆し、テレビ・ラジオで政治についても解説。取材の対象は自公から共産党まで幅広く、フリーランスにも開放されている金曜日午後の官房長官会見には必ず参加する。2016年に『野党共闘(泣)。』、2017年12月には『"小池"にはまって、さあ大変!「希望の党」の凋落と突然の代表辞任』(以上ワニブックスPLUS新書)を上梓。

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