深化と探索には「野球とサッカー」ほどの差がある 日本企業が探索とスケーリングに不得手な理由

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その脈絡で言うと、アイディエーション、インキュベーション、スケーリングという3段階の理論は、日本でリアルに起きていて、日本企業がやらかしがちな問題点を突いています。

入山:もったいないですよね。探索のために種蒔きしているけれども、チャールズの言うように、スケーリングのところでぐっと落ちてしまう。

冨山:本来は逆向きのポートフォリオ経営をすべきなのに、投資が逆になっていたり、探索事業のほうが高く売れるので、苦しくなるとそちらを売ってしまう。売るべき事業を間違える例は、あちこちで起きています。これは、日本の会社に撤退力がないことも原因です。

だから、増補改訂版に文化の話と、深化事業バイアスの2つの要素が追加されたのは、わが意を得たりで、余計に日本の会社向きになったと思います。

読み応えのある経営書に向き合うチャンス

入山:AGCの事例が追加されて、日本企業も両利きの経営ができないわけではないことに、励まされる企業もあるかもしれません。つくづく思うのは、アメリカ人は事例集が好きですよね。

冨山:そうですね。マイケル・ポーターの本も固い内容で事例ばかり。私がスタンフォード大学のビジネススクールに留学していた時代には、競争戦略の標準の教科書だったので、読まされましたが、疲れる、疲れる(笑)。

それから当時、教授だったジム・コリンズが『ビジョナリー・カンパニー』を書いていて、僕らも手伝わされました。『ビジョナリー・カンパニー2』からコリンズの芸風が変わりましたが、最初の本は大学で書いた真面目な学術論文系で、執念深いくらい事例集でした。

ただし、MBAの良いところは、勉強する以外にすることがないし、論文を書くために本をたくさん読まざるをえないこと。しかも、論文は一問一答式ではないので、自分の中で一度、抽象化する。それは良い訓練になるはずです。

入山:昨今のコロナ禍で、皆さんが家に籠もるようになってから、本を読むようになったと聞きます。これまでは忙しくて、通勤中にスマホしか見ていなかった人も、家にいるようになり、せっかくの機会だからと、読み応えのある本を読もうとする。それは良いことですね。

冨山:学生時代にそういう勉強をするチャンスを逃してきた人にとって、コロナになって、本を読んで、取り戻す時間があるのは良かったかもしれません。

経営書には、クレイトン・クリステンセンやポーターのように、10年や20年経っても腐らない本があり、『両利きの経営』もそうなるかもしれません。ただし10年、20年経ってみないと、真価はわからない。目の前の状況は変動して振れ幅が大きいほど、通底的に続いていくものを見極めることが大事ですね。

[構成:渡部典子]

冨山 和彦 経営共創基盤(IGPI)グループ会長

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とやま かずひこ / Kazuhiko Toyama

経営共創基盤(IGPI)グループ会長。1960年東京都生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学MBA、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。2007 年の解散後、IGPIを設立。2020年10月より現職。共著に『2025年日本経済再生戦略』などがある。

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入山 章栄 早稲田大学ビジネススクール教授

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いりやま あきえ / Akie Iriyama

1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2019年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』などがある。

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