深化と探索には「野球とサッカー」ほどの差がある 日本企業が探索とスケーリングに不得手な理由

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パスが来て、シュートを打つかどうか監督を見て決めるような意思決定では、うまくいきません(写真:なべすん/PIXTA)
既存の業界秩序が破壊される時代、既存事業の「深化」により収益を確保しつつ、不確実性の高い新領域を「探索」し、成長事業へと育てていく「両利きの経営」が欠かせない。
この「両利きの経営」研究の第一人者であるチャールズ・オライリー、マイケル・タッシュマンの『両利きの経営――「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』が、2019年2月に刊行され、日本のビジネス界でも大きな話題になった。今回、新たに2章分が加わった増補改訂版が翻訳出版された。
本記事では、前回に続いて、解説者を務める経営共創基盤グループの冨山和彦氏と早稲田大学教授の入山章栄氏が、今回の増補改訂のポイントである企業文化とイノベーションプロセスについて対談した。

企業文化は、野球からサッカー型へ

入山:『両利きの経営』の増補改訂版では、新しい章が2つ増えました。文化の影響を取り上げた第4章と、チャールズ・オライリーがすごく推している、アイディエーション、インキュベーション、スケーリングという3つのイノベーションのプロセスの第7章。それから、AGCの事例も追加されました。冨山さんは、増補した内容について、どんな見解をお持ちですか。

『両利きの経営(増補改訂版)』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら。楽天サイトの紙版はこちら、電子版はこちら

冨山:今回、チャールズやマイケル・タッシュマンが文化の話に注目したのは正解だと思います。過去どうだったかは別にして、これから両利きの経営を仕掛ける脈絡で考えると、絶対にぶつかるのが、企業文化や行動の課題です。これは、かなりディープな組織能力論で、そこを乗り越えないとうまくいかない。

私が提唱しているコーポレート・トランスフォーメーション(CX)もまさにそれを言っていて、人々の行動様式、意思決定の癖、そのメカニズムをかなり深く変える必要があります。

私がよく例に出すのが、野球とサッカーの違いです。単に競技形態が違うだけでなく、意思決定のやり方がまったく違う。野球は毎回、インターバルがあって、ピッチャー、キャッチャーでサインを交換し、ベンチからも指示が出る。カーブを投げるか、ストレートを投げるか。スクイズをするのかどうか。そのサインによって命運が分かれることもある。

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