深化と探索には「野球とサッカー」ほどの差がある 日本企業が探索とスケーリングに不得手な理由

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入山章栄(いりやま あきえ)/早稲田大学ビジネススクール教授。1972年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、2008年にピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールのアシスタントプロフェッサーを経て、2019年より現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界標準の経営理論』などがある(撮影:尾形文繁)

冨山:そうです。とりあえず、こういう文化に変えたいと思ったら、それに合わない規範は変えないといけない。しかし、みんなそこに踏み込むのが怖いし、そこに踏み込むと、社内の人々の琴線に触れてしまう。だって、野球がうまい人にとって、グローブもバットも触るなと言われたら、とんでもない話ですから。

いろいろな既得権とぶつかって、人事制度にもメスが入るでしょう。そこは何とか回避して、野球選手のままサッカーをやりたいのですが、それができない。しかも、経営者も野球選手上がりで、野球が好きだったりする(笑)。

入山:本当につらいですよね。

ダイエーとカネボウが陥った深化バイアス

冨山:新たに追加されたイノベーションプロセスの3段階論は、どちらかというと、入山さんが指摘していたので、私も気づかされました。深化バイアスがかかって、スケールの罠にはまる、と。

入山:知の探索には、手間やコストがかかって、収益に結びつくかどうかもわからない。それよりも今、業績の出ている事業を深化させるほうが、はるかに効率が良い。だから、企業は知の探索を怠りがちになる傾向がある。それが深化のバイアスです。

冨山:実は、チャールズが最初の本を書いていたときに、なぜダイエーやカネボウは失敗したのかと、かなり聞かれました。彼はジェントルマンなので、こうした他国の失敗事例は本に載せていませんが(笑)。

その議論をしながら、漠然と思い浮かんだのが、入山さんの縦軸に探索、横軸に深化を使ったフレームワークです。それではっきりしたのが、ダイエーもカネボウも失敗したのは、深化バイアスにはまったからだと。

(出所)『両利きの経営(増補改訂版)』p.11。図は入山章栄氏が作成

たとえば、カネボウは探索で成功して、化粧品事業をつくりました。ダイエーもコンビニエンスストアのローソンを展開している。なのに、なぜカネボウは、古くて儲からない繊維事業を縮小しないで、成長力のある化粧品で、繊維の赤字を埋めたのか。

ダイエーも同じで、ローソンは業界2位のコンビニになっていたのに、経営が苦しくなると、なぜかローソンを売って、黄昏になりつつあるGMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア)事業を残した。完全に深化バイアスで、だから、45度の角度に上がれなかった。今回の3段階の話と、入山さんの縦横のフレームワークを組み合わせると、きれいに符合するのです。スケーリングすべきところをしていない。

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