「攻める農業」「儲かる農業」の大号令の裏で、農業の名人が絶滅の危機に瀕している。日本の農業に未来はあるのか。
――日本は食料危機に瀕しているのでしょうか。
「食料危機が来る」「だから食料自給率の向上を目指せ」というのが通説だが、日本に食料危機など存在しない。講演などでこう言うと、聴衆はなんとも悲しそうな顔をする。ホラー映画やジェットコースターで楽しむのと同じで、現実的でない恐怖ほど人々を熱狂させるものはない。
国がこのまやかしを喧伝する理由はこうだ。農家はマニュアル化しやすいコメを作りたがるから、戦後一貫して供給過剰になっている。農家には強い政治力があるので、国は彼らを保護するために大量の補助金を投じる。ただ、補助金を投じるには大義名分が必要だから、そこで作られたのが食料危機だ。ここに研究者やマスコミが同調し、危機を煽っているという構図がある。
――「まやかしの危機」でも、それで農業の未来が明るくなるならまだよいのですが。
問題なのは、日本の農業政策が農業の地盤を強くするどころか、その逆に働いていること。「攻めの農業」や「儲かる農業」の名の下、農業の大規模化やマニュアル化が進んでいる。
その裏で日本の風土に合った本当にいい品種、いい農法に光が当たらず、今まさに消えようとしている。「農業のハリボテ化」が起きているのだ。
技能の低下が著しい
とくに技能の低下は著しい。少し前までは、稲の葉を見ただけで「あんたの田んぼは、こういう格好をしてますな」と田んぼの状態を言い当てられる名人がたくさんいた。それがこの10年で次々亡くなっている。
――新規就農者は増えていますが、技能の継承はうまくいっていないのでしょうか。
新規就農者の頭数こそ、国が莫大な補助金をつけたこともあって増えているが、残念ながら彼らの多くは名人芸の継承者たりえない。外国人技能実習生と同等に扱われ、使い捨てられるパターンが非常に多く、そうでなくても補助金を得ていることで国の操り人形になってしまっている。ただ、国は新規就農者の数だけを見て、就農者が増えて地元の雇用を創出していますね、拍手、と。これでは単なる数字遊びだ。
この記事は有料会員限定です。
東洋経済オンライン有料会員にご登録いただくと、有料会員限定記事を含むすべての記事と、『週刊東洋経済』電子版をお読みいただけます。
- 有料会員限定記事を含むすべての記事が読める
- 『週刊東洋経済』電子版の最新号とバックナンバーが読み放題
- 有料会員限定メールマガジンをお届け
- 各種イベント・セミナーご優待
無料会員登録はこちら
ログインはこちら