愛知で最も人口少ない村が「キャビア生産」挑む訳 広告は「チョウザメが、村の人口を超えました」

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2015年1月、稚魚だったチョウザメが3年間で80センチまで成長し、村民を招いて報告会と試食会を開催した。村民の大半はチョウザメを食すのは初めてのことだったが、臭みもなくあっさりとした味わいが好評だったという。

熊谷さんが中心となり、村民とともに「豊根フィッシュファーマーズ」を結成したのもこの年。豊根村も国の地方創生の取り組みと連携して、事業の本格的実施を進めた。

「豊根フィッシュファーマーズ」代表取締役の熊谷仁志さん(筆者撮影)

「国の地方創生交付金を活用して、養殖技術の改善や高度化を図るために愛知県幸田町や名古屋大学と連携して研究したり、東海大学とともに養殖技術のマニュアル化に着手したりしました。雄のチョウザメを“ロイヤルフィッシュ”として販売を開始したのもこの頃です」(青山さん)

前出の『山のレストラン ふるさと』をはじめとする村内5軒の飲食店や旅館でチョウザメの料理の提供がはじまったのは、翌2016年から。さらに、チョウザメの切り身などの加工品やキャビアを生産するため、旧学校給食共同調理場を有効活用して淡水魚加工施設も整備した。

清流かけ流しで日本一の品質をめざす

養殖場は村内に数カ所あり、約5000匹が育てられている。あらためて見ると、山の斜面に建てられていることに気がついた。休耕田を再利用していて、山頂から流れてくる川の源流をそのまま養殖に使用しているのだ。これにより水をくみ上げるための電動ポンプや水をろ過するための設備は不要となる。

山頂から流れてくる川の源流を利用した養殖場(筆者撮影)

何よりも、澄みきった清流のかけ流しでチョウザメを育てることができるのが最大のメリットである。筆者が食べた「ザメ重」に臭みがまったくなかったのは、この生育環境にあることを実感した。

通常、チョウザメはほかの淡水魚と同様に、臭みを抜くために数日間はいけすで泳がせておかなければならないが、ここのチョウザメは仕入れたその日に調理することができるという。もちろん、キャビアも臭みがまったくないため、本来の味が堪能できる。

「養殖場の規模や出荷量の日本一は難しいけど、品質の日本一をめざしたい」と、熊谷さんは力強く語った。

豊根村産のチョウザメのブランド名“ロイヤルフィッシュ”は商標登録され、キャビアも“ロイヤルキャビア”と命名された。今年4月、ふるさと納税の返礼品としてキャビア1瓶(25グラム)とチョウザメのスライス(100グラム)のセットの出荷がはじまり、これまで80名の申し込みがあったとか。

キャビアだけではなく、チョウザメのスライスを付けたのは、その上にキャビアをのせて食べてほしいという熊谷さんの思いから。何でも、クラッカーにのせるよりもキャビアそのものの味が楽しめるらしい。もう、考えただけでよだれが出てくる。近い将来、ご飯の上にチョウザメの薄造りとキャビアをのせた「ロイヤルフィッシュ親子丼」が道の駅などで食べられる日が来るかもしれない。

永谷 正樹 フードライター、フォトグラファー

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ながや まさき / Masaki Nagaya

名古屋を拠点に活動するフードライター兼フォトグラファー。

地元目線による名古屋の食文化を全国発信することをライフワークとして、グルメ情報誌や月刊誌、週刊誌などに記事と写真を提供。

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