愛知で最も人口少ない村が「キャビア生産」挑む訳 広告は「チョウザメが、村の人口を超えました」

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また、道の駅のレストランで2300円という価格設定はかなり強気のように思えたが、ご存じのとおりチョウザメの卵、すなわちキャビアは貴重なため、食用として使用されるのは雄となる。しかも、チョウザメは稚魚から育てて、雄と雌の判別がつくまで約3年もかかり、どうしてもコストは高くなるのだ。

「当初、『ザメ重』がお客様に受け入れられるか不安でしたが、物珍しさから注文した方がリピーターになってくださいました。今では多いときで1日20食は出る、ここの名物になりつつあります」(石田さん)

半数近くの稚魚が死んだこともあった

道の駅を後にして向かったのは、チョウザメの養殖場。ここには豊根村役場農林土木課長の青山幸一さんも同行した。豊根村でチョウザメの養殖がはじまったのは、2012年の春。過疎化が進む中で新たな産業や特産品を生み出すことができないかと模索していたときに「世界三大珍味のキャビアを作って村を盛り上げよう!」と名乗りを上げたのが、前出のポスターのモデルにもなっている「豊根フィッシュファーマーズ」代表取締役の熊谷仁志さん(当時53歳)だった。

かつて豊根村では豊富な水資源を利用して、アマゴやニジマスなど淡水魚の養殖が盛んだった。ところが高齢化が進んで、事業として取り組む人はほとんどいなくなってしまった。熊谷さんは若い頃、淡水魚の養殖場で働いたことがあり、いつか再び挑戦したいと思っていた。そんな中、家業の運送業で自分の右腕として働いていた仲間が亡くなり、ずっと自身の夢を心の中にしまっていた。

しかし、キャビアの生産という新たな夢が熊谷さんを突き動かした。自宅にあった建材の残りを集めて水槽を作り、茨城県の業者から稚魚を1000匹仕入れた。事業化するにあたって、村が創設した「豊根村起業家支援事業補助金」を申請。認定第1号として村も熊谷さんを支援した。

稚魚から育てて、雄と雌の判別がつくまで約3年。さらに雌が育っていき、キャビアが採れるようになるまで7〜10年。実を結ぶまでにとてつもなく長い時間がかかるこの事業に行政が支援したのは大きな後押しとなったに違いない。

「最初の3年間は、試行錯誤の繰り返しだったよ。アマゴやニジマスと違って、養殖の技術がまだ確立されてないから。半数近くの稚魚が死んだこともあった」(熊谷さん)

日本国内におけるチョウザメの養殖は茨城県や岐阜県、宮崎県などでも行われているが、それらの技術をそのまま当てはめてもうまくいくとは限らない。それぞれ環境が異なるため、それこそ養殖の技術は養殖場の数だけあると言っても過言ではないのだ。

となると、水質や餌の種類、分量など、1つひとつ試しながらデータを採って分析していくしかない。しかも、1日たりとも休むことなく。考えただけでも気が遠くなるが、「難しいことに挑戦するのが楽しいんだよ」と、熊谷さん。

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