就活生が「タクシー運転手」に新卒カード切る理由 都内の新卒採用者数はこの10年で約20倍に

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しかし、ここ数年、「GO」や「S.RIDE」「Uber」「DiDi」といった配車アプリが浸透。タクシー運転手の働き方は大きく変わった。

現在、都内の運転手は1回の業務(約16時間)で平均30件弱の客を乗せる。そのうち配車アプリ利用は7~8件と約3割を占める。「コロナ禍で配車アプリの浸透が想定以上の速さで進んだ」(複数の大手タクシー会社関係者)。

日の丸交通の富田和孝社長は「配車アプリの導入によって、タクシー業界は間違いなく働きやすくなっている。流しで必要だった経験やテクニックの不足を補えるようになり、効率的なマッチングで空車時間を減らせるので、新人のドライバーでも高パフォーマーになるケースが増えてきている」。実際、日の丸交通では、「Uber」を使っているドライバーは、そうでないドライバーより、1カ月あたりの売上高が約18万円多く、月給も約11万円多かったという。

朝の出勤に利用する30代が増えた

足元で客足も回復してきている。都内の5月のタクシー営業収入は2019年度比8割強の水準に戻った。配車アプリ「GO」を展開するMobility Technologiesによると、夜の帰宅と終電後の利用は減少したが、朝の出勤時と昼間のビジネス移動時の利用が増加したという。需要をさばききれない時間帯も発生しており、タクシー1台あたりの売り上げは2019年度を上回るようになっている。

最近は、毎日の出社にタクシーを利用する30代のビジネスパーソンが増えたと話す運転手も多い。感染対策になるうえ、落ち着いたプライベート空間を確保できるので、出勤の合間に仕事をするのに適している。

このように需要が戻ってきているにもかかわらず、運転手の人手不足が続いているため、タクシー各社は人材獲得に必死だ。日の丸交通の富田社長は、「まずタクシー運転手を”稼げる職業”にしなくてはならない」と語る。都内の運転手の平均年収は都内の全産業平均と比べて200万円ほど低い。「この差を埋めて他産業にも負けないようにする。そのために配車アプリなどを導入してDX(デジタルトランスフォーメンション)を進め、1人あたりの売上高を上げていく」(同)。

Mobility Technologiesで運転手の採用支援を手がける眞井卓弥氏は、ITプラットフォーマーとしての立場から訴求できることもあると語る。「DXによって運転手の働き方は確実によくなってきている。タクシー事業者はそれをアピールして新卒を増やしていくとよい。一方でわれわれのようなITプラットフォーマーは、配車アプリや新しいサービスを提供して運転手のイメージをよくしていく」。

コロナ禍を経て、配車アプリが普及し、今後さらにDXが進めば、タクシー運転手は「効率的に稼げる魅力的な職業」へ変われるのかもしれない。

村松 魁理 東洋経済 記者

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むらまつ かいり / Kairi Muramatsu

自動車業界、工作機械・ロボット業界を担当。大学では金融工学を学ぶ。趣味は読書とランニング。パンクロックとバスケットボールが好き。東京都出身。

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