就活生が「タクシー運転手」に新卒カード切る理由 都内の新卒採用者数はこの10年で約20倍に

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しかし、2010年ごろから全国のタクシー運転手が毎年1万人超のペースで減少しはじめると、タクシー各社は一転して重い腰を上げることになる。先細りする業界を長く支えてほしいという願いから、ついに新卒採用に本腰を入れ始めた。

大学を卒業したばかりの若者をタクシー会社に振り向かせるのは容易ではなかった。長い間醸成されてきたタクシー運転手への「長時間労働、危険、賃金が不安定」という世間のイメージを変えるのは、大変な困難を伴った。

たしかにタクシー運転手は通常、出庫から帰庫までおよそ16時間働き通す。ただ、その間には2時間以上の休憩時間が事故防止のため義務づけられており、会社によっては3時間以上を推奨するところもある。勤務形態も隔日勤務であることが多い。

一般的なタクシー運転手の1カ月の労働日数は11~13日。土日休みの企業より10日前後少ない。新卒で都内の大手タクシー会社に入社したある運転手は、「ほかの業種と比べて会社に縛られる時間が少なく、休日も多い。自分の時間を持ちやすい」と語る。

給料は新卒から歩合制。営業成績に応じて固定給に上乗せした歩合給をもらえる。頑張り次第で大きく稼げる能力主義になっている。「中小のタクシー事業者の場合、社長より稼ぐ乗務員なんてざらにいますよ」(業界関係者)。

しかし、新卒の親からの反対の声は根強く残った。「せっかく大学まで入れたのに、うちの子をタクシー運転手なんかにはさせない」と言ってくる保護者もいたという。

国際自動車の職場見学会
国際自動車は「オープン・カンパニー」を開催し、就職を検討している本人の家族や友人などに営業所を開放して、職場の理解につとめる(写真:国際自動車)

そこで各社は、親の理解を深めるため、さまざまな施策を凝らす。日本交通や日の丸交通は、就活生の保護者向けの説明会を開催し、経営トップ自ら登壇して対話をし、理解を得ていった。国際自動車は保護者だけでなく、就活生の恋人や親族向けの会社見学会を開催し、職場を実際に見てもらうことで理解を促した。

そうした努力の結果、例えば都内最大手の日本交通は、2012年からの10年間で新卒採用数が50倍に増え、2022年には300人の新卒者が入社した。採用実績には東京大学など難関大学出身者も相当数含まれている。新卒の3年後離職率も30%台半ばと全産業並みで推移している。

「配車アプリ」の普及が追い風に

新卒運転手が増えている背景には、配車アプリの存在がある。「客を降ろして空車になっても、すぐ配車アプリで呼ばれることが多い」と前出の新卒運転手は話す。

タクシーは流しで客を探すことも多く、天候や時間帯によってたくさんの客がいる場所を予想することが重要。どの車線を走るかなどのノウハウも大切だ。経験豊富な運転手ほど有利というのがこれまでのタクシー業界の常識だった。

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