日本人の賃金上昇には「ルールある解雇」が必要だ 「好条件の転職」を「当たり前」にするためには?

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人を雇う側にも事情がある。

例えば、先のようなケースで1億円プレーヤーがまったく役に立たなかった場合、「試しに雇ってみたけれども、ダメだったからクビにして、新しい人を探す」というオプションがあれば、会社側は人をより気楽に雇うことができる。

正社員をクビにできないというルールは、「転職しようとした場合に、雇ってもらいにくい社会」に加担している面があるのだ。「正社員をクビにできないという」ルールは、雇用の流動性を著しく妨げていて、日本の人材のセカンダリー・マーケットの成長を阻害しているのだ。

今のルールでも、経営者に周到な準備と闘う根性があれば社員をクビにできるだろうという議論は一理あるのだが、わが国の多くの経営者には周到さも根性も十分ないのだから、彼らが安心して「横並び」で行動できるルールが必要だ。

また、社長の根性だけで社員を好きなようにクビにされても、社員の側はたまらない。とくに多くの中小・零細企業にあっては、社長の一存で社員が確たる補償もなく辞めさせられるケースが少なくないはずだ。

解雇の金銭補償ルールが必要だ

いかにも日本的なのかもしれないが、ある程度共通の横並びの規範として、正社員を解雇する際の「金銭補償のルール化」が必要だ。解雇する側から見ても、解雇される側から見ても、「その解雇は不当解雇か否か?」といったツマラナイ問題で裁判をしたり、その可能性を考えたりすることは大いなる無駄だ。

例えば(まったくの仮の話なので数字の水準は問わないでほしい)、雇ってから2年目までなら過去2年平均の(2年に満たない場合は推定の)対年収比3カ月分(給与でもらってもボーナスでもらっても同じにする)、以後勤務年数14年目まで2年ごとに1カ月分ずつ解雇の際の金銭補償額が増えていくルールがあったらどうか。

つまり過去2年の平均年収の最大9カ月分(2年までで3カ月+12年で6カ月)を、正社員を解雇する際に会社側が支払わなければならない。もちろん、企業年金や退職金、ストックオプションなど元々社員の権利である報酬とは別の支払いだ。

解雇された社員は、解雇の代償としてこの補償金を受け取り、もちろんその外に雇用保険の給付を受けることができる。ケース・バイ・ケースだろうが、次の仕事を探すための「兵糧金」としてはまずまずではないか。

逆に、解雇する側にとってはそれなりに重い支払いだが、金銭補償の額があらかじめ計算できれば、人員の入れ替えなどの経営行為に対してコスト計算ができるようになる。経営戦略の立案にあって、小さくない効果があるだろう。

もちろん、個別に評価してとびきりパフォーマンスが悪い「働かないおじさん(おばさん)」を個別に退場させることができる効果もある。

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