韓国・尹錫悦政権が模索する徴用工問題の出口 尹大統領の就任早々の不人気は不安材料だが

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仮に現金化が現実のものとなれば、日本政府は対抗措置を取らざるをえなくなり、日韓関係改善の機運は一気に消えてしまう。ウクライナ戦争に加え台湾をめぐる中国の動きが緊迫している中、日韓関係の崩壊は中国を利するだけでなく地域の安全保障にとっても深刻な問題になるだろう。それだけに現金化阻止に向けた尹錫悦政権の活発な動きは歓迎すべきことだ。

しかし、韓国政府の思惑通り当面の現金化が先送りされても、その先の見通しは甘くない。最大の理由は尹錫悦大統領の極端な不人気である。

5月に就任してわずか2カ月余りしかたっていないのだが、尹錫悦政権の支持率は当初の5割超が一気に低下し、8月初めには20%台前半まで落ち込んだ。国民感情の動きが激しいと言われる韓国でもあまり前例のないことだ。

身内を多く登用、エリート意識が強い

不人気の理由がさらに深刻だ。世論調査結果が指摘するのは、大学時代などの同級生や検察官時代の部下など身内を数多く登用する人事、政治家としての経験や資質の不足、国民が直面している不景気やインフレなどの問題への取り組みの欠如といった政権の体質批判だ。

尹錫悦大統領は文在寅政権時代に検事総長に抜擢されたが、文大統領の側近の法相に対する捜査を進め辞任に追い込むと、一転して大統領側からの反撃にあい職務停止命令を受けるなど文大統領と戦い続けてきた経験を持つ。いかなる困難に直面してもくじけない芯の強さやエリート意識は大統領になっても変わらないようだ。

マスコミに支持率低下についての感想を聞かれると尹大統領は、「大統領選挙の時も支持率は別に気にしなかった。特に意味がない」「支持率低下の原因がわかればどの政府もうまく解決したでしょう」などと応じている。また、閣僚候補から相次いで不祥事が発覚した時には、「前政権で指名された長官の中でそれほど立派な人を見ましたか」と記者を指さして不快感を表したという。その様子がそのまま報道されるのであるから、支持率が上がりようはないだろう。

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