「熱中症」搬送件数が真夏より増加する意外な時期 気温だけでなく「暑熱順化」の獲得も大きく影響

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一般に、暑熱環境下でのパフォーマンス発揮が通常環境下と比較してネガティブな影響を受けるのは、運動時間が長い種目であると考えられます。その理由は、体温の過度な上昇がパフォーマンス発揮に影響を与えるからです。運動時間が短時間の場合には、発汗による過度の脱水や筋活動による熱産生も少なく済みますので、体温が過度に上昇するリスクもそれほど高くありません。従って、暑熱環境下では長時間に及ぶパフォーマンス発揮が求められる種目、つまり持久的な能力が関係する種目が影響を受けることになります。

順化トレーニングによる生理学的な変化がもたらす効果

しかし、順化トレーニングによる生理学的な変化は、暑熱環境下でなくても、パフォーマンス発揮にポジティブに働くことが指摘されているのです。

暑熱順化によって得られる血漿量の増加や心拍数の低下などの効果は、心臓循環系に関する指標の変化です。このような変化が通常環境下でのパフォーマンス発揮にも効果があるかどうかは興味深いところです。なぜなら、暑熱環境下でのトレーニングが通常環境下でのパフォーマンス発揮に役立つことになるからです。

グラフ3
出典:『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』

上の表は暑熱順化による生理学的な変化と通常環境下でのパフォーマンス発揮への影響をまとめたものです。この表を見ると、順化で得られた生理学的な指標に対する効果の多くは、通常環境下でのパフォーマンス発揮にポジティブに働く可能性があることを示しています。

暑さを味方につける[HEAT]トレーニング
『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』(扶桑社)。書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします

一方、持久力に限らず、間欠的な能力を評価するテスト(Yo-Yo intermittent recovery test Level 1:10秒間の休息を挟んでのランニングを繰り返し行い、何m走れたかを評価するテスト。

ランニングの速度は段階的に速くなる)のパフォーマンス発揮に対して、暑熱環境下での数日間のトレーニングの継続が、通常環境下での同テストのパフォーマンス発揮にポジティブな影響を与えたことも報告されています。

その一方で、認知機能に関しては、順化によってポジティブな効果が得られるとは言えない報告もあります。ただし、実験における認知機能を評価するテストが、実際のスポーツ活動時の認知機能をどこまで評価できるかは判断が難しいところです。

中村 大輔 博士(スポーツ医学)

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なかむら・だいすけ / Daisuke Nakamura

筑波大学で学位を取得後、国立スポーツ科学センター、立教大学、株式会社ウェザーニューズを経て、現公益財団法人日本サッカー協会、フィジカルフィットネステストプロジェクトメンバー。専門はトップアスリートのコンディショニングおよび運動生理学。国立スポーツ科学センター在籍時には東京五輪に向けた暑熱対策プロジェクトを立ち上げ、多くの競技団体やトップアスリートに対し、暑熱対策に関する医化学的なサポートを行った。著書に『暑さを味方につける[HEAT]トレーニング』(扶桑社)がある。

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