アプリが自動支払い、イタリア「運賃精算」新時代 日立開発、センサーで経路を記録し最安を算出

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このシステムは、混雑緩和以外にもさまざまな活用が考えられている。例えば電気バスの運行だ。環境負荷軽減に効果があるが、充電に時間がかかることや導入コストの高さが課題で、多くの都市では当面ディーゼルエンジンのバスと併用せざるをえない。その際、市内の渋滞状況や乗客の流動を把握できれば、ディーゼルバスの燃費が悪化する渋滞時には電気バスを集中的に使用し、混雑率が上がりそうなら必要に応じてディーゼル車を応援に出すといったことができる。

不正乗車の防止にも一役買うことが期待されている。ヨーロッパの都市交通は日本と異なり、基本的には駅に改札がないのが一般的だ。改札機を導入するとなると多額のコストがかかるが、ビーコンは低コストのため導入のハードルが低い。車両の混雑率とセンサーが把握している人数に差があれば、スマホにアプリを入れていない人、つまり不正乗車の可能性が高い人の多い車両を把握できる。その車両をピンポイントで検札すれば、効率よく不正乗車を見つけ出すことが可能になる。

日本で導入の可能性は?

今回のシステムは、通信にブルートゥース(BLE)を採用した。当初はGPSなども検討されたが、GPSはつねに通信状態を維持するためスマートフォンのバッテリー消耗が著しく、これが大きな問題となった。BLEの場合、通信は一瞬で済むため、バッテリー消耗の心配がほとんどないという点も採用を決定した理由の一つだ。

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このBLEは日立製ではなく、外部の市販品汎用型を日立側でカスタマイズし、セキュリティ強化を図っている。BLEは低価格かつ外部からの給電不要なバッテリータイプで、寿命はだいたい5年程度。双方向の信号のやり取りがあるため、信号入力がない、つまり故障しているビーコンを瞬時に発見できるメリットがある。

ただ、開発初期の検証段階では、ワイヤレスヘッドホンのようなほかの機器からの割り込みによって正しく認識されないといった問題が浮上し、その洗い出しに時間を費やしたという。位置情報の認識に要する通信は一瞬で済むが、音楽再生などはつねに通信状態となるので、割り込みができなくなる原因となったのだ。前述のように公共交通機関と並走した場合に混信して課金されないか、といった問題もあった。これについては通信出力を絞ることで、逆に決められた範囲内での精度を増すことに成功している。

「ただし、BLEはあくまで現時点での最適解であって、もしBLEに代わるより優れた代替品が現れれば、それに置き換えることも可能です」と小岩氏はいう。

今はまだ、イタリアの1地方都市でようやく実用化が始まったばかりだ。利用者の視点では、スマートフォンにアプリさえ入れればチケット購入すら不要という点はプラスで、事業者にとっても利用実態の把握や運賃収受の徹底などメリットは多い。日立によると、このシステムはすでに複数の都市で導入が計画されているという。一方で、事業者ごとの独立採算が基本となっている日本の公共交通機関への導入はハードルが高く、その可能性はあるのかという点も気になるところだ。

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橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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