アプリが自動支払い、イタリア「運賃精算」新時代 日立開発、センサーで経路を記録し最安を算出

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町の中心に位置するデ・フェラーリ駅に到着。この駅はネーミングライツで日立の名前を冠している。今回、この都市交通網のデジタル接続のモデル都市としてジェノヴァが選ばれた理由は複数あり、新しいシステムの初期導入にあたって都市のサイズが適当であったこと、クルーズ船の入港で日によって3000人以上も都市人口が増減するなど人流の変動が激しいことなど、システムそのものに対する利点があっただけでなく、ジェノヴァが日立STS(旧アンサルドSTS)のお膝元で、市からの協力が得やすかったことが大きく関係している。

ジェノヴァのデ・フェラーリ・日立駅
ジェノヴァ市中心部のデ・フェラーリ駅はネーミングライツにより「デ・フェラーリ・日立」駅となっている(撮影:橋爪智之)

市内を一周し、出発点の滞在先ホテルまで戻ってアプリを見ると、それまでの経路が記録され、100分に満たない移動だったため1.50ユーロが課金されていた。1日の最大課金額は1日乗車券と同額の4.50ユーロとなる。朝から晩まで交通機関を何度も利用していれば、アプリが自動的に1日乗車券へと切り替え、それ以上は課金されない仕組みだ。

コロナ禍で一気に現実化

日立レールの小岩氏によれば、このシステムの構想自体は5年前からあったが、過去数年はプロトタイプの検証という段階でとどまっていた。それがコロナ禍で状況が一変したのだという。「都市封鎖が起きた2020年4月、とある交通事業者から突然連絡が入ったんです。『利用者の上限を切りたい、何とかしてくれ』と」(苦笑)。

コロナ禍による都市封鎖では交通機関の利用にも厳しい制限が設定されたものの、利用者数は曜日や時間帯、路線や区間などによって大きく変動するため、例えば各車両の乗車率上限を60%以下にしろと言われても、交通事業者は対処のしようがなかった。都市交通は乗車時間や座席が指定されているわけではないので、人の流れを正確に追いかけない限り、状況を把握するのは困難だ。

一見すると無茶なこの交通事業者からの依頼に、プロトタイプ検証にとどまっていたデジタル接続と、MaaS(Mobility as a Service)のシステムを応用して人の流れを把握できるということに気付いたのだという。

MaaSはさまざまな交通機関を集約し、経路検索や予約、支払いをスマートフォンなどの端末を使ってまとめてできることが特徴だ。ただ、検索後の予約や購入は利用者が操作し、チケットを見せたりQRコードを読取機にかざしたりという行為も必要となる。さらに言えば、MaaSは利用者側の視点に立って開発されたものである。

今回の試みは、開発の経緯などを含めてどちらかといえば事業者側の視点で「どうしたら利用者数を最適化し、効率よく運行できるか」という課題を、利用者の動きを把握することで達成するのが最大の目的となっている。ある意味でハンズフリーで自動的に課金される仕組みは副産物ともいえるが、結果的にいわゆるMaaSより一歩進んだシステムになっている。

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