ビジネス面の動きも注目される。「otta」に進出する「ホテルグランビナリオTSURUGA」は、同じ延伸区間の石川県小松市に本社を置く株式会社・Hifリゾートが経営する。芦原温泉駅(福井県あわら市)の駅前に富山市の企業がビジネスホテルを進出させたのと同様、沿線間で宿泊業界の活動が活発化している形だ。
Hifリゾートは地元からホテルスタッフを採用するにとどまらず、顧客の開拓を目指して、独自の観光パンフレットを制作した。A4版16ページ、協力した敦賀市も驚くボリュームと質という。
同社の中嶋浩代表取締役社長は「敦賀は多くのポテンシャルがある。開業のチャンスを最大限に生かしたい」と抱負を語る。同ホテルは北陸新幹線の高架を見渡す位置に建ち、部屋によってはトレインビューを楽しめそうだ。その立地をどう活用するかも、期待が膨らむ。
乗り換えストレス対策も課題
関係者の動きと言葉に活気が漂う敦賀市だが、不安材料も少なくない。
敦賀市は人口約6万3000人と、整備新幹線の開業駅を抱えた自治体では北海道北斗市(新函館北斗駅)の約4万4600人に次いで少ない。北斗市の隣に人口約24万6000人の函館市が位置することを考えれば、実質的に最も駅勢圏人口が少ない開業事例となる。
一方で、北陸新幹線と特急サンダーバード・特急しらさぎの乗換客は年間980万人と見込まれている。ビジネス需要が限られる中で、敦賀駅の乗降者をどれぐらい確保できるかが1つの焦点だ。
併せて、乗換客のストレスをどう最小化するかも大きな課題となる。現在、関西と北陸を結ぶ特急サンダーバードの中には、敦賀駅を飛ばして京都駅から福井駅までノンストップの便もある。この列車の利用者経験者にとっては、乗り換えの発生は大きな段差となるだろう。
筆者もかつて、2002年まで盛岡止まりだった東北新幹線から東北本線への乗り換えを何度となく経験し、苦痛に感じていた。新たな乗り換えの発生は、敦賀という地名へのネガティブなイメージを喚起させかねない。
地元の利用動向も気掛かりだ。敦賀市民の多くは現在、東京へ向かう際は車で滋賀県の米原駅まで出て、東海道新幹線に乗車しているという。北陸新幹線は特急料金が割高になる可能性があり、東京と行き来する手段としてどれだけ選択されるか、料金やダイヤの設定が注目される。
敦賀市の施策は、長野新幹線以降30年近く続いてきた、観光を基軸にした整備新幹線の開業対策とは一線を画している。もちろん、観光振興にも力を注いでいるが、これほど「市民の暮らし」に軸足を置いた対策は、あまり例がない。かつて市を支えてきた原子力産業の将来像が見えにくい中、「依存体質」を克服する重要な転機として、新幹線開業を活用したいという意識も垣間見える。
ただ、とくに金沢開業時の観光客急増を目の当たりにし、また、長く観光客を強く意識した開業対策を見聞きしてきた人々にとっては、異色な施策と映るかもしれない。どう受け止められ、どこまで受け入れられるかが大きなカギと言える。都市規模を考えると、挑戦的と位置づけられる試みは実を結ぶのか。市民や北陸新幹線利用者の反応は――。成果の評価には、少し長い時間軸と、適切な指標の選択が欠かせない。
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