「ロッキー」権利持たないスタローンの不条理事情 脚本、監督手掛けた作品を取り戻す最後の戦い

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そうやって行き止まりの状態が続くうちに、スタローンと『ロッキー』の人気は衰退していく。『ロッキー5』は北米3位デビューと最初からつまずき、トータルの北米興収は『ロッキー4』の3分の1にとどまった。6作目となる『ロッキー・バルボア』は、作らせてもらうのにもひと苦労だった。そうなると、権利をくれなどと強気なことを言える立場にはない。

しかし、2015年、ライアン・クーグラーのアイデアで、アポロ・クリード(カール・ウェザース)の息子を主人公にした『クリード』に助演で出演すると、スタローンと『ロッキー』にあらためて脚光が当たることになる。今作で、スタローンは『ロッキー』1作目以来、初めてアカデミー賞にノミネートされた。『ロッキー』で始まった彼のジャーニーは、一周してまたここに戻ってきたのだ。

「負け試合」に勝利できるか

ロッキーは、スタローンにとってかけがえのないキャラクター。そんなロッキーのことを、スタローンは「兄弟のような存在」という。だが、その大事なキャラクターは、彼のものではなく、ウィンクラーのものだ。その後は、ウィンクラーの子供たちのものとなる。

ウィンクラーはもう91歳で、その日はそう遠くないかもしれない。だからこそスタローンはなおさら焦りを強めているのだろう。昔から言われたように、おそらくそれは起こらないことなのか。それとも、ウィンクラーが心変わりをしてくれる可能性はあるのか。負けるに決まっている試合に勝つロッキーの姿を描いてきたスタローンは、一縷の希望を持ち続ける。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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