アメリカ社会に地殻変動を起こす最高裁と保守州 リベラル化から保守化へ長期的な潮流が変わる

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最高裁の保守化と同時に、保守派が心掛けてきたもう1つの長期戦略が州政府の保守化だ。これはジョージ・W・ブッシュ元大統領の選挙参謀を務めたカール・ローブ氏が推進していた取り組みだ。

10年ごとの国勢調査に基づき、各州政府は選挙区割りを実施するが、保守派は自らの党に有利となる選挙区割り「ゲリマンダリング」の主導権を握ることに注力してきた。2010年中間選挙ではオバマ大統領に対する反発で共和党が勢力を拡大したことも影響し、全米50州のうち22州で共和党が知事職と州議会・上下両院の過半という3つを握るトライフェクタを実現した。その後の共和党に優勢な選挙区割りも功を奏し、現在も23州で共和党はトライフェクタを堅持している。

最高裁と州政府の過半を保守派が握ることでアメリカ社会は2つに分裂しつつある。今回の最高裁判決後、人工妊娠中絶については共和党が強い「レッドステート」で規制強化の動きが即時に見られた。一方、民主党が強い「ブルーステート」では引き続き人工妊娠中絶が可能だ。その結果、ブルーステートあるいはレッドステートのどちらの州に住むかによって、自らの権利が制限されるか否かが分かれている。

人工妊娠中絶を支持する女子高生の一部は大学を選ぶに際してどこの州にあるのかを考慮するようになっているという。つまり、これら女子高生は人工妊娠中絶禁止の州を進学先から真っ先に排除しているという。今後、人工妊娠中絶に限らず、同性婚など他の権利についても、憲法が保障する権利ではないと司法が判断することを、民主党は懸念している。

党派対立で機能不全の三権分立

「ザ・フェデラリスト第51編」(1788年発行)でやはり建国の父のひとりで、後に第4代大統領に就任するジェームズ・マディソン(1751~1836年)は司法、立法、行政がお互いの権力を牽制し合うと捉えていた。

日本では最高裁判事の定年は70歳だが、アメリカでは議会の弾劾裁判で罷免とならないかぎり一生、その身分が保障されている。終身制にはもともと判事が政治的影響を受けにくくする狙いがあった。だが、先月の判決結果からも党派色は明らかだ。マディソン氏は司法、立法、行政の三権の間で同じ政党が横に連携し、三権分立の牽制機能を働かなくさせることを想像もしていなかったであろう。

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