アメリカ社会に地殻変動を起こす最高裁と保守州 リベラル化から保守化へ長期的な潮流が変わる
保守派がリベラル派を大幅に上回ったのはトランプ前政権下であったが、その立役者はトランプ氏ではない。長年、最高裁の保守化を目指し取り組んできたミッチ・マコーネル上院院内総務など伝統的な共和党保守派だ。
その取り組みは1987年まで遡る。ロナルド・レーガン大統領(当時)はロバート・ボーク最高裁判事候補の指名承認を目指した公聴会で失敗。同公聴会を仕切ったのが当時、40代で上院司法委員長を務めていたジョー・バイデン氏であった。それを皮切りに、上院が判事候補を資質ではなくイデオロギーを理由に却下するといった立法の司法に対する政治的影響力が強まった。バイデン氏と同じく当時、上院議員であったマコーネル院内総務はその屈辱を胸に30年以上も最高裁の保守化を最重要課題としてきた。
最高裁における保守派の逆襲はまだ始まったばかり
1982年にイェール大学、シカゴ大学、ハーバード大学の法科大学院で学ぶ生徒たちの一部が大学のリベラル思想に対抗して保守系法曹団体フェデラリストソサエティを立ち上げた。ボーク氏も同団体の立ち上げに携わっていた。フェデラリストソサエティはその後、保守派の人脈形成、資金集めの中心的役割を担うようになり、今日、法曹界で最も影響力がある団体となっている。保守派の最高裁判事6人全員が現在あるいは過去のフェデラリストソサエティの会員だ。
フェデラリストソサエティは、トランプ前大統領の2016年大統領選勝利でも欠かせない存在であった。トランプ氏は、空席であった最高裁判事を同団体作成の候補者の中から選定することを公約にして、共和党保守派の支持を集めた。最高裁判事指名については、実質、マコーネル氏をはじめとする保守派がトランプ氏を動かしていたのだ。
マコーネル氏の巧みな政治手腕によって最高裁の保守化は実現できたといっても過言ではない。アメリカ政治は選挙スケジュールから2年サイクルと呼ばれるが、マコーネル氏をはじめ保守派は長期的な視野で取り組んできた。先月末の相次ぐ判決は、ボーク氏やマコーネル氏の努力がようやく実を結び始めたものだと言える。司法における、バイデン氏をはじめ民主党に対する保守派の逆襲はまだ始まったばかりにすぎず、次期以降も最高裁は保守寄りの判決を下していくに違いない。
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