JR西日本が開拓、鉄道に続くもう1つの「高速網」 鉄道用光ファイバー活用、JR他社はどう動く?

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こうして各社の動きを見ると、JR西日本が先行していることがわかる。さらに近畿エリアでは私鉄各社との連携も進めており、近鉄や阪神、阪急などの路線と光ファイバーの相互接続を行う仕組みも整えた。鉄道では近鉄や阪神は並行して走っている区間が多く、JRとライバル関係にある。しかし、「並行に走っているということは、二重系化や負荷分散が図られるといった冗長性が確保できているということ」(山内社長)。鉄道と通信では並行区間の考え方が違うのはユニークだ。

小回りの良さを利かせて、JRWONは事業展開を急ピッチで進めている。6月23日、JRWONはソフトバンクグループのBBバックボーンとパートナーシップ契約を結んだと発表した。大阪市内の主要DCが集結する堂島、曽根崎、大阪ビジネスパークを大阪環状線とJR東西線沿いの光ファイバー網で結ぶ「大阪なにわリング」を構築し、2023年初めに提供開始する。

鉄道も通信も「安定性」が重要

7月14日には大阪―福岡間における高品質・大容量の伝送サービスを2023年初めから開始すると発表した。現在行っている光ファイバー空き芯線の貸し出しは芯線を物理的に貸し出すことであり、専用機器の設置などさまざまな作業を施さないと通信回線として使えず、利用のハードルは高い。一方、新サービスでは必要な機器はすでに設置済みで、大阪市内や福岡市内にあるDCからでも接続が可能。利便性が高まり、中小規模の事業者など顧客層が大きく広がりそうだ。

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顧客は関西にとどまらない。「首都圏直下地震などの大規模災害時におけるバックアップ拠点としてGAFAなど外資系IT事業者の間で大阪が注目されている」と山内社長は言う。すでに東京と大阪の間には多くのネットワークが構築されているが、「東海道新幹線の高品質な光ファイバーが使えるなら大歓迎」という通信事業者の声も聞く。

とはいえ、今回の取材で鉄道や通信事業者の間で話題となっていたのは、7月2日に発生したKDDIの大規模通信障害だった。鉄道事業者の光ファイバーネットワーク事業は鉄道のすぐ隣で行われているだけに、業績面だけに目をとらわれることなく、鉄道の安全性、そして通信の安定性にも目を配ることが必要だ。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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